13節
文字数 2,090文字
面を食らって顔を見合わせるスピカ達。
失礼と知りつつスピカが確認し直す。
「あの……
本当にあなたがベガ医師なんですか?」
「ええ〜、そうよぉ〜
私の事知ってるのぉ?」
「もちろん知ってますよ!
三賢人の1人何ですから。」
「サンケンジン……?
なぁにそれ?」
「知らないんですか!?
ご自身が偉人として有名な事!?」
「まぁ!
私有名だったのぉ〜?恥ずかしいわぁ〜!」
ベガ曰く、新聞などは一切読まない為、世間の話題には疎いという。
自分がどう認知されているのかすら知らないとなると、疎いというレベルではないが……
この調子では元家族であるアルタイルやデネブが、自分と同じ三賢人であるという事も知らなさそうだ。
宇宙船計画の事を1から説明して協力して貰わなければならないが、取り敢えずそれは後。
今はそれよりも重要な事がある。リゲルがそれについて説明を求める。
「あなたは半年以上も行方不明となっています。
その間、ずっとここに?」
「そうねぇ〜、それぐらい経つかも知れないわねぇ〜」
「ここを随分自由に使っている様ですが、監禁されている訳ではないのですか?」
「違うわよぉ。」
「……では何故、半年もずっとここに?」
「外に行く理由がないからぁ〜」
「…………
……(説明それだけか!?)」
回答が簡潔過ぎる。1の質問には1しか答えない。
何の補足もしてくれないから、いちいち全部訊く必要がある。
長々喋る人も厄介だが、短か過ぎるのも困りものだ。
おまけに喋るテンポが遅いのも相まって、なかなか話が前に進まない。
しかしそれでも貴重な証人である事は変わらない。
根気強く話をする構えのリゲルだったが、会話の途中で遂にアルクがキレた。
「この女が何故ここにいて、何をしていたかなんてどうでもイイッ!!
それよりもミモザだッ!!」
アルクはベガの目の前に移動し、鋭い目付きで脅す様に睨みながら問い質す。
「昨日の夜、ここに女の子が連れて来られたはずだ。
知っているか?」
「知ってるわよぉ〜」
「その子は今どこにいる!?
知っているなら連れて行けッ!今すぐだッ!!」
あまりに乱暴な頼み方。
というより、これではほぼ脅迫だ。
気持ちは分かるがこれでは相手を怖がらせるか、もしくは怒らせるかするだけ。余計に話が進まなくなる。
スピカが止めさせようとした時……
「あなたぁ、その子との関係はぁ?」
今まで淡々と答えるのみだったベガが初めて質問した。
何故かアルクに興味を示したのだ。
質問に対しアルクが答える。
「その子の父親だ!」
この答えを聞いた瞬間、ベガは微かに笑った。
ずっとにこやかな表情だったのだが、その時の笑みだけはどこか不気味なものを感じた。
「そうなのぉ〜
じゃあ心配よねぇ〜
すぐ会わせて上げるわぁ〜」
部屋を出て手招きするベガ。
アルクは険しい顔つきのままその誘導に従う。スピカ達も後に続く。
道中、スピカの頭にアルタイルからの警告が思い出される。
『ベガには決して1人で会いに行ってはいけません!
もし会う事があっても、雰囲気に惑わされて気を許さない様にして下さい!』
確かにおっとり系に見えて、どこか得体の知れない恐怖を感じる。
今まで培って来た常識の尺度では測れない。強い弱いとかではない、全く別次元の存在と対面している様な……
とは言えベガはただの人間。それも女性だ。
今のメンバーなら万に一つも遅れは取る事はないと思うが……
一抹の不安を拭い切れないまま歩くこと数分。
ベガが着いた先のとある扉を開いた。
扉の先には数メートル挟んで別の扉があるという二重扉になっていた。
何故こんな構造になっているのか?その理由は1つ目の扉を潜った直後にわかる。
「(゜ก゜) クセッ!」
「何この臭い……
薬品?嗅いだ事ない臭いだわ……」
2つ目の扉を開くとその臭いは更に強くなる。
我慢できないレベルの激臭という程ではないが、間違いなく不快感は感じる。
この臭いを外部に洩らさない為の二重扉だったのだろう。
部屋を覗き込むと中は真っ暗。1メートル先もろくに見えない。
ベガは入ってすぐ横の壁に備え付けられていた懐中電灯を手に取ると、足元だけを照らしながら奥へと進んで行く。
「あの!
この部屋電気付いてないんですか?」
「あるけどぉ、点けない方がいいわぁ。」
「何でですか?」
「余計な物まで見えちゃうからねぇ〜」
「はぁ??」
暗闇の中をベガが歩いた後を辿る様に進む。
足音の響き方から数十人は入れそうな大部屋だと分かる。
とは言え、こんな臭いのキツイ真っ暗な場所にミモザが居るとは思えない。
きっとここから別の部屋に繋がっているのだろう。
そう思っていたのだが……
「着いたわぁ〜
ここよぉ〜」
そう言ってベガは懐中電灯の灯りを足元から目の前へと移す。
照らし出された物体は、4人の思考を一瞬で凍り付かせた。
「綺麗でしょ〜?
物は大事にする方なのぉ〜
“生体備品”は特にねぇ〜」
そう言って撫でたガラス製の筒の中には、首の無い幼女の身体が浮かんでいた。