12節
文字数 3,003文字
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『近日オープン間近だった高級観光ホテル「ロイヤルエクレウス』が、隕石の衝突によって半壊するという事故が起きた。当時現場に居たオーナーのキタルファ=エクレウス氏を始め数十名の怪我人が出たが、奇跡的に死者はゼロだった。
しかしその被害調査の際、ホテル内から銃器や違法薬物を多数発見。更に救出された女性5名が強姦未遂の被害を申告。余罪も含めキタルファ氏の身辺調査が急ピッチで進められている。
なお現場にはなにかと話題の女司祭も居た。女司祭は以前にも隕石落下の現場に居合わせており、その時も隕石により通り魔を撃退している。
本人は関与を否定しているが、市民の一部では今回も女司祭が奇蹟を呼び、悪人を退治したのではと囁かれており……』
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「気に入らねぇ……」
新聞を睨みながらドゥーべが呟く。不機嫌そうに頬杖を突いて隣に座るリゲルにボヤく。
「何でスピカの手柄になってんだよ!一番苦労したの俺らだろ!」
「仕方ないだろ。
実際、解決したのはスピカとその仲間達なんだ。」
「だとしても俺らの頑張りが1行も書かれてないって……
あ〜あ!やっぱ良い事なんてするもんじゃねぇ〜!!」
文句を垂れるドゥーべの元に女性店員がコーヒーを運んで来た。それをテーブルに置きながら慰めの言葉を掛ける。
「まぁまぁ。
書かれてないですけど助けられた女の子達、星騎士団に感謝してましたよ。」
その女性は衣類店で出会ったデネボラだった。
貰ったコーヒーを早速口にする2人。香りもコクも普段飲むものとは比較にならない程芳醇だ。良い豆を使って、良い淹れ方をしているのが素人目でも分かる。
「美味いじゃん!
団の奴らにも紹介しとくよ。」
「ホント!?
是非お願いしま〜す♪」
「でも良いのかい?あの店辞めちゃって?」
「あんな事があったら流石に居られないですよ……
それに前からいつか辞めて、自分の店を持とうって決めてたし。
思ったより早く辞めちゃったから、ちょっと貯蓄が心許ないけど……」
「ならもう少し続けても……
キタルファが失脚するのは確定なんだ。少しは働き易くなるんじゃないかい?」
「バ〜カ!トップが変わったぐらいで、組織体質はそうそう変わらねぇよ。
お前が団長になった時みたいに、過半数が抜けるぐらい思い切りブッ壊れでもしない限りな。
俺は辞めて正解だと思うぞ。」
「……そうだな。
余計な事を言ってすまない。
ドゥーべ、その新聞私にも見せてくれ。」
リゲルはドゥーべが読み終えた新聞を借りて、件の事件の記事に目を通す。
やはりと言うべきか、ケバルらオフィウクス商会については一言も触れられていない。まんまと全責任をキタルファに押し付けたという事だ。
商会の人間も多数捕まった筈だが、この様子では恐らく大した罪には問われず、すぐ自由の身になるだろう。
「ケバルライに関しては捕まってすらいないしな。
逃げ足も流石はナンバー2と言うべきか……」
「間違い無くアイツはまだこの国に居る。
あれくらいでここから手を引くとはとても思えない。」
「まぁでも、この街にはスピカっつうバケモノが居るって知ったから、あんま好き勝手しないだろ。」
「誰がバケモノよ!」
そうツッコミながらスピカが喫茶店に入って来た。
2人と同じテーブルにつき、同じ様にコーヒーを貰う。
一服し終えるなり、鋭い目付きで2人を睨む。
「あの日見た事、誰にも言ってないでしょうね?
言ったらこの写真を……」
「言ってねぇから早く写真のフィルム渡せよ!」
「ダメ。
リゲル君はともかく、ドゥーべ君は信用出来ない。」
「こいつ……ッ!!」
「それよりスピカ、久しぶりだな。
2年ぶりくらいか?」
「そうね。
聞いてるわ。リゲル君、今は団長なんでしょ?
……って、そう考えたら君付けは失礼か。“リゲル団長”って呼ばなきゃね。」
「ありがとう、”スピカ司祭”。」
「再会喜ぶのは後にして、本題に入ってくれ。
あの子供の事、話してくれるんだろ?」
今日3人がここで待ち合わせたのは、あの日起きた事をスピカから説明して貰うため。
スピカは再度誰にも言わないことを2人に固く誓わせてから全てを話した。
ビエラは一体何者なのか?
どういう経緯でスピカと一緒にいるのか?
そして、これからこの世界で何が起きようとしているのかを。
——(カクカク、シカジカ)——
「……という事なの。」
「おいおい……
この世界にもうすぐ宇宙から侵略者が来るって?
そんな話信じる奴……」
「世界の危機じゃないか!」
「居たよ、バカが……」
侵略者に立ち向かう為の鍵。それがビエラだ。
スピカはビエラこそ星教で語られる神であり、とんでもない力を秘めていると豪語する。
神かどうかはともかく、ビエラが普通の子供じゃない事は確かだ。2人はその証拠を自分の目で見ている。
あの力は確かに今この世界にあるどんな兵器にも勝る。もし本当に宇宙を渡れるような超技術を持った敵が攻めて来るのであれば、対抗できるのはビエラくらいだろう。
「でもあの力、まだ上手くコントロールできないのよ。
だけどコントロールする為のヒントが宇宙にあるって事は分かってる。
だから今度、アルタイル教授が造る宇宙船に乗せて貰うことになってるの。」
「初の宇宙船搭乗者ってお前なのか!?」
「君は一体何を目指してるんだ……」
とにもかくにも、まずは宇宙船を完成させないことには先に進めない状況にある。しかしその宇宙船開発が早くも行き詰まっている。
開発にどうしても必要な人物があと2人いるのだが、その2人になかなか会えないのだ。
機工の匠デネブは何故かアポイントが全然取れない。彼が運営する工房にいつ連絡しても、忙しいから無理の一点張りらしいのだ。
こちらはアルタイルが粘り強く交渉中。進展を待つしかない。
もっと問題なのが稀代の名医ベガ。彼女に至っては何処にいるかすらわからないのだ。
だからリゲル達には是非ベガを捜索して欲しい。スピカはそう頼む。
それぐらいなら通常任務の範囲。助けて貰った礼もあるから優先的に対処すると、リゲルは快く承諾した。
「他に困ってる事は?」
「資金がちょっと足りないかもって言ってたけど、これは2人にはどうしようも……」
「それなら父に打診してみよう。」
「え?」
「私の父は商業区の区長で資産はそれなりにある。
こういう夢のある投資は大好きだから、きっと喜んで力になるだろう!」
トントン拍子に進む話に大喜びのスピカ。
しかしその横でドゥーべが眉間に皺を寄せていた。
「……ちょっと待て。
商業区区長ってベテルギウス=オリオンの事か?」
「ああ。
そう言えばドゥーべにも言ったこと無かったかな?」
「…………」
数秒の沈黙の後、ドゥーべはリゲル胸ぐらを掴みながら立ち上がった。
「この国のナンバー1金持ちじゃねぇか!!
その名前出してればキタルファぐらい即黙らせられただろッ!!」
「そうかもしれないが、父の名前に頼るのは卑怯……」
「使えるもんは全部使えッ!
そうすればあんな大事件になる前に止められたんだぞッ!」
「止められなかったのは私達の力不足だ!
誰かを頼る前に力を付ける努力が先だッ!!」
相変わらず全く意見が合わない2人。
喧嘩を始めてしまったのを見てスピカは思った。
(この2人……
昔から全然変わってないなぁ……)
ーーーー 第7章『シン星騎士』 完 ーーーー