5節

文字数 1,575文字

——ポルックス回想——

 スピカ司祭と別れた後、教室に案内された僕達はそこで他の体験入学の子と合流し、1人ひとつずつ名札を渡されました。
 僕は黄色の名札でリギルは青色の名札。それを付けて待っているとすぐに授業を担当する教授が来ました。

 教科は数学。基本的には教会学校でも勉強した内容でしたが、1段階掘り下げた応用レベルの問題にも触れていて、レベルの高さに流石は学術院だと思いました。
 30分程授業を受け一旦一呼吸入れる事になりました。そこで教授がこう言ったんです。

「ここまでで”青色の名札”をつけている子で質問がある子は居ますか?」

 何故名札の色を限定したのか不思議でしたが、その時は特に気にしませんでした。

 50分の授業を終え休み時間に入りました。するとすぐに一人の子が教授に元へ行って質問をしているのを見かけました。
 熱心な良い子だな、と思っていたんですが……

「自分で考えなさい。」

 返されていた返答は本当にその一言だけでした。それだけを言って教授は教室を出て行ったんです。
 その時質問した子は”黄色の名札”を付けていました。

 衝撃でした。学ぶ意志を示している子に対して、あんな態度を返すなんて……
 でもきっと少し考えればすぐわかる程度の質問だったから、まずは一人で考えてみろってアドバイスしたんだ。
 深く考えるのが怖くなって、そう強引に自分を納得させました。



 2限目の授業は歴史学。もちろん教授も変わりました。
 ここでの内容は殆ど初めてでした。教授がみんな知ってると思うけど、と軽く流そうとした所も僕は知らなくて咄嗟に質問しました。

「すみません。
 さっきのところ、よく知らないので詳しく説明して頂けますか?」
「……」

 無視でした。
 聴こえなかった訳じゃありません。ちらっとこっちを見ましたから。
 でも何も聴こえなかったみたいにそのまま授業は先に進みました。

 何か悪い事でもしてしまったのか?訊き方が悪かったのか?
 何で無視されたのか訳が分からず言葉を失っていると、リギルが手を上げて発言しました。

「あのーッ!」
「何だね?え〜と、リギル君?」
「さっきポルが質問してた所、オレも知らないんですけど。」

 すると教授は要求に応えてその部分を詳細に説明し始めました。僕の時とは違って……
 説明の途中でまたリギルが手を挙げました。

「何でポルが訊いた時は無視したんですか?」
「彼の質問には答える必要が無い。」

「は?」
「彼は黄色の名札。つまり”無料学生”だ。
 正規学生とは違い、彼に質問する権利は無い。」

 名札の意味には薄々勘付いていました。これは払っている授業料の有無を見分けるものだと。
 でもまさか、ここまで待遇に差が有るとは思っていなかった。

 ショックでした……
 きっと、僕以外の黄色の名札の子も同じだったと思います。

「授業中に質問できないのはわかりました!
 ならせめて、授業外でだけでも質問さえて貰えませんか!?」
「…………」

 授業中にする話じゃないと思います。でも、そう言わずにいられなかった。
 でも、この問い掛けにも教授は何の返答も返してくれませんでした。何も無かった様に授業が再開されました。

 まったく生徒扱い……いや、人扱いして貰えていない。
 もう……、授業どころじゃありませんでした。

 悔しくて、悔しくて……
 声を押し殺して目を拭いました。

 そしたらまたリギルが説明を遮って手を上げたんです。

「すみませ〜ん!
 ちょっと来てオレのノート見て貰えますか?」
「はぁ……、また君か……」

 短時間に3度も説明を中断させられて教授はウンザリしてました。それでも青色の名札を付けているリギルの呼び掛けには応えました。

「どうしたのかね、リギルく……」

 ノートを見るために頭を下げた先生の顔面をリギルが殴り飛ばしました。
 リギルは僕のために怒ってくれたんです……
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登場人物紹介

名前:スピカ=ウィルゴ

性別:女

年齢:27

身長:162センチ

この物語の主人公。

基本は優しい心の持ち主だが平和主義者というわけではなく、必要とあれば荒事も辞さない。

有り過ぎる行動力と小賢しい悪知恵が働く以外はごくごく普通の一般人。

名前:ビエラ

性別:女

年齢:?(見た目は7歳くらい)

身長:117センチ

準主人公。

何故か一切声を出すことが出来ない。その代わりなのか感情に合わせて動きを変える、アホ毛の様なもの(触覚?)が頭頂部から生えている。

性格は奔放で好奇心旺盛。なのにビビり。

名前:アクルックス=クルス

性別:男

年齢:30

身長:188センチ

大柄で逞しい体躯を持ち、素行には大人の落ち着きがある。愛娘が一人いて、名前は”ミモザ”。

彼と知り合ったことをきっかけに、スピカ達はとある猟奇事件に巻き込まれる。(2章へ続く)

名前:アークトゥルス=ボーティス

性別:女

年齢:18歳

身長:155センチ

やや素直さに欠けるが根は真面目で勤勉。このお話では貴重な十代女子。

農夫達からの依頼で農作物を荒らす魔女の解決に乗り出したスピカ。その正体がなんと彼女だった。(3章へ続く)

名前:アルタイル=アクィラ

性別:男

年齢:51歳

身長:175センチ

宇宙や世界の真理を探究する高明な学者。『三賢人』と呼ばれる3人の天才の一人。

彼がビエラに関する情報を持っていると聞いたスピカは、彼の働く学術院を訪れるが…(4章へ続く)

名前:カノープス=カリーナ

性別:女

年齢:28歳

身長:161センチ

おっぱい担当兼、物語の核心に絡む角の生えた美女。しっかり者だが若干天然が入っている。

ビエラと関係があるかもしれない謎の飛来物の調査に来たスピカ一行。そこで偶然彼女と出くわす。(5章へ続く)

名前:リゲル=オリオン

性別:男

年齢:28歳

身長:176センチ

女と見紛うレベルの超美形。それでいて中身も聖人君子の出木杉君タイプ。

仕事でとある人物の護衛の任についていた彼は、その過程で思いがけず"裏の人間"と邂逅する。(7章へ続く)

名前:デネブ=シグナス

性別:男

年齢:50歳

身長:168センチ

数々の名品を生み出してきた機工技師。アルタイルと並ぶ『三賢人』の一人。

彼、強いては彼が代表を務める工房の力が必要になったスピカ。しかしその工房はある男に乗っ取られていた。(8章へ続く)

名前:花圃の魔女(本名不明)

性別:女

年齢:23歳

身長:159センチ

アークトゥルスの元仲間。手下を従えて群れるのが好きなお局気質の女性。

平和に暮らしていたアークの元に突然現れた彼女は、魔女である者は決して逃れられない"悲運"を告げる。(9章へ続く)

名前:(左から)ミモザ=クルス、ポルックス=ジェミニ、リギル=ケンタウルス

性別:女、男、男

年齢:7歳、10歳、10歳

身長:120センチ、139センチ、148センチ

ビエラの友達。いずれも喋れず身元不明なビエラを変に思わず、分け隔て無く受け入れる豊かな心を持つ。

公園である小動物を拾ったビエラは3人にどうするべきか相談する。それがキッカケとなり、子供達4人だけの小さな冒険が幕を上げる。(10章へ続く)

名前:デネボラ=レオ

性別:女

年齢:24歳

身長:166センチ

小さな喫茶店を経営する若き商売人。オシャレでギャルっぽい見た目だが、性格は実直で働き者。

先輩の手伝いで第13居住区にやって来たスピカ。そこでデネボラと偶然出会い話に華を咲かせていると、突如ある男が乱入して来て大混乱を巻き起こす。(11章へ続く)

名前:ミアプラキドゥス=カリーナ

性別:女

年齢:26歳

身長:148センチ

行方不明のカリーナ四姉妹の次女。子供の様に小柄で遊び人気質。

全国民が対象となる年に一度の健康診断。それが始まるとほぼ同時に、何故か行方不明者が続出し始めた。その事件にはどうやらミアが関係している様で……(12章へ続く)

名前:ベガ=リラ

性別:女

年齢:52歳

身長:155センチ

コスモス1の名医と言われる三賢人の1人。おっとりゆったりした立ち居振る舞いで、誰しも初めは癒し系の印象を受けるが、その本性は……

ずっと探していたベガを遂に見つけたスピカ。しかし彼女はコスモスの地下に隠された、恐ろしい闇に深く関わっていた。(13章へ続く)

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