第74話

文字数 821文字

 先ほどのウェイトレスがカフェラテを運んでくると、一気に半分まで傾け、コトリと音をたてながらソーサーにカップを置く。美穂子も香りを確かめるように鼻に近づけると、少しだけ口をつけた。
「多少無理があるが、確かにそうだとすれば辻褄は合うかもしれない」再びテーブルの上で両腕を絡めながら、鼻を膨らました。「でも、こうは考えられないだろうか?」
「何?」勿体つけないでと言わんばかりに、美穂子は眉をひそめた。
「志穂さんを殺したのは、実は公子さんの方で、それを知った神林が報復として公子さんと関係のあった森村を亡き者にした。そこで手打ちにするため、話し合うことになり、公子さんは夫である神林典行を自宅に呼び出した。ところが神林が到着する直前に、気が変わって扉に鍵を掛けたまま、中に入れようとはしなかった。そこで神林は逆上して、テレポーテーションを使って無理矢理侵入すると、自分の妻に襲い掛かった。もしかしたら、あの鉄アレイは公子さん自身が用意したものかもしれないな」
「どうしてそう思う?」
 そんなの決まってるじゃないかと前置きした後で、「夫である神林典行を殺すためだよ」水嶋は当然のように言った。

 カフェを後にした二人は、そのままゴールドヘヴンに向かった。つまり、同伴出勤ということになる。だが、いざ到着すると、店の前の扉には『本日貸し切り』のプレートが掛けられていた。
「おかしいわね。貸し切りなんて聞いてないわ」美穂子は不思議がるが、だからといって今さら引き返すわけにもいかない。
 どちらにしても、美穂子は出勤しなければならず、最悪、断られるのを覚悟で扉を開けた。出来るだけ店のスタッフに怪しまれないように、互いに腕を絡めながら同伴を装い、水嶋は引きつった笑顔を作る。当然肌が触れ合ったが、浮かんだのは『あまりさわ』だった。『あまり触らないで』と解釈すべきなのだろうが、ただでさえぎこちないのに、触らなくては同伴に見えないだろう……と、水嶋は目で訴えた。
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