第80話

文字数 826文字

 エントランスにコンシェルジュを残し、三人は連れ立って駐車場へと足を向ける。
 やがてパトカーが目に入り、諦めて乗り込もうとした時、いきなり正面に止めてある車のライトが眩しく光った。先ほど気になっていたレクサスからだ。
 ドアが開き、サングラスの男が飛び出たかと思うと、二人の刑事の顔面にスプレーを吹きかけた。村崎と黒木は目を押さえながらもだえ苦しんでいる。どうやら、スプレーの正体は催涙性のもので、水嶋は素早く村崎のポケットに手を入れると、USBメモリーを奪い取った。そして、サングラスの男に腕を引かれるまま、レクサスの助手席に乗り込むと、勢いよくドアを閉めた。
 サングラスの男も素早く運転席に座り、サイドブレーキを解除しながら、アクセルを思い切り踏み込む。
 激しい揺れと強烈なGをまともに感じて嗚咽が漏れそうになった。が、刑事たちを撒くことには成功したようだった。

 興奮して息も絶え絶えだった水嶋だったが、しばらく車に揺られるうちに、徐々に落ち着いてきた。
 いつの間にか大通りに出ていて、背後からパトカーのサイレンが聞こえるものの、やがて小さくなっていく。
「間一髪だったな。あそこで見張っていてよかったぜ」
 サングラスを外すと、男の正体は探偵の高野内だった。
「どうしてあそこに?」唖然としながら訊ねた。
「あんたの依頼を調査しているうちに、きな臭い噂を聞きつけたのさ。神林が脱税して大もうけをしているってな。だから証拠を掴もうとして張り込んでいると、あんたの姿が見えたって寸法さ。猫探しばかりじゃ大した稼ぎにはならなくて、困っていたところだった。そこで、ひと山当てようとしたが、あんたを助けたおかげで、俺も警察に目を付けられる羽目になっちまったぜ」その割に憤っている様子はない。それどころか、まんざらでもないらしく、こう付け足した。「もちろん、それなりの報酬は頂くからな」
 まさか、へっぽこ探偵に窮地を救われるとは思いもせず、後日、報酬を支払う約束した。
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