第98話

文字数 843文字

 美穂子は無言で頷くと、流しの横にあった、ガラスの灰皿をテーブルに乗せる。美穂子もメンソールをバッグから取り出すと、二人して煙を吐き合った。
「……そもそも君のお姉さんは、本当にやよいさんに突き落とされたのかな」ようやく口から出た言葉がそれであった。
「それ以外考えられないでしょう? まさか私が突き落としたとでも?」美穂子の瞳を見つめながら黙ってうなずくと、彼女は呆れ顔になった。「じゃあ、どうやって密室を作ったのよ。私がもう一つ、別の合鍵を持っていたとでも言いたいのかしら」
「そうじゃない。村崎警部補の話では、鍵は二本しか存在せず、一つはこの部屋にあって、もう一つは神林が持っていたんだから、君が所持していたとは思えない」水嶋は、先ほど使用した鍵をちらつかせた。
「だったら、どうやって部屋の鍵を掛けたの? あらかじめ神林から鍵を盗んで、後でこっそり返したか。……もしくは、あの探偵とグルになって、神林のポケットに入っていたと嘘の証言をさせたとでも?」顔をほころばせた彼女は、手を叩きながら、「判ったわ! 部屋の鍵は内側からロックして、姉と一緒に飛び降り、私だけ体操選手みたいに着地したのね」と、おどけて言った。
 首を横に振ると、水嶋は再び口を広げる。
「もしそうだったのなら、まだ良かったんだけどな。……でも、現実はもっとあり得ないことだったんだ」
 ならば、どうやって部屋から脱出したのかと、その手段を問われた。だが、答えは後回しにして、今度は森村の事件に話題を移した。

「彼の場合も、完全な密室だった。刑事さんもそう言っていた。誰も侵入した形跡がないと。そこで俺は、最初に神林がテレポートを使って入室し、森村の包丁を使って犯行に及んだと推理した。もしくは包丁と森村を裏庭にワープさせて背中に刺し、その直後に部屋の中へと戻した。……でも、その後、神林が無実だと判った」
 水嶋は神林から読み取ったメッセージを語り、話を続けた。美穂子は、根拠が薄いと反論したが、今は弁明せずに、話を先に進める。
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