第10話

文字数 1,213文字

 効果はてきめんだった。
 訪れた客たちは、みな一様に水嶋の、――水前寺堂乃丞の占いを不信がることはなかった。価格は三十分五千円と、決して安価とはいえない設定にしていたが、それでも満足度は高かったようで、客の八割以上が、次の予約を入れるほどだった。

 口コミが広がったおかげで、都心部や埼玉、神奈川からの客も訪れるようになった。さらにボッタクリのパワーストーンを売りつけるアイデアを思いつき、売り上げは前回以上に天井知らずだった。

 収入に余裕のできた水嶋はアルバイトを辞め、時間を持て余すようになった。
 この頃になると、家具も次第に増え出して、六十インチの有機ELテレビや使いこなせないほどの高性能なパソコンといった電化製品から、プレイステーション5やBOSEのステレオプレイヤーなども買い入れるようになった。棚には最新のゲームソフトやCDが並び、簡単な防音設備を整えたオーディオルームを作成しては、大音量を鳴らし、悦に浸る日々を送る。
 車も購入して、ビルのすぐ近くに駐車場も借りた。今は中古の軽だが、いずれは新車のスポーツカーを買うつもりだった。

 そんな矢先に訪れたのが、幸田志穂と名乗ったどこか陰のある女性と、チンピラ風の男のカップルだった。

 ――たすけて――

 あれはどのような意味だったのだろうか? 一晩経ってもその四文字が頭から離れない。
 ベッドから起き出した水嶋は、まず顔を洗い、いつものように食パンをオーブントースターにセットし、その間にコーヒーを淹れる。一応コーヒーメーカーも買ったのだが、一週間もしないうちに面倒になり、最近はもっぱらインスタントだ。
 出来上がった朝食を居間に運び入れると、もやもやした気持ちでテレビのスイッチを入れた。
 バターを塗ったトーストをかじりながらコーヒーを傾けていると、CM明けに流れた、あるニュースが水嶋の胸を揺さぶった。
 それは昨夜未明、都内某所にあるマンションにて女性の墜落事件が起きたという報道だった。
 第一発見者は同じマンションの住人で、今朝の午前六時ごろ、ゴミ出しのためにマンションを出たところ、マンションの脇に倒れている女性を発見したらしい。発見当時、既に息はしておらず、警察の調べでは、女性の部屋はマンションの七階の一室で、そのベランダ付近から転落したとみられている。転落した時間は、昨夜未明としか発表されておらず、部屋に鍵がかかっていたことや、遺体に争った形跡がないことから、自殺の線が濃厚らしい。
 だが一方で、遺書は残っておらず、関係者からの証言では、自殺の動機も得られていないようで、事故の可能性も捨てきれないとの事だった。
 それだけではありきたりな事件だが、度肝を抜いたのは被害者の名前だった。
 『幸田志穂(36)』
 画面の中央には、被害者の顔写真と共に、そのテロップが表示されている。まさしく昨日占った女性であり、水嶋の脳裏に再びあのメッセージがよみがえった。
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