第91話

文字数 568文字

 開口一番、「やよいさん。どうして今まで、店を休んでいたんですか? 皆さん心配していましたよ」もちろん殺人についてはおくびにも出さない。
 質問には答えようとせず、やよいはハンドバッグをギュッと掴みながら、何かを言いたげに、目を泳がせている。水嶋も敢えて黙したまま、それに付き合っていると、まわりの会話がやけに大きく感じ、ワザと大げさに両手を挙げて、背伸びをしてみせた。
 しばらく沈黙が続いたのち、やよいはようやく口を広げた。
「……先ほど電話でも言いましたが、お話したいことがあるんです」
「何でしょうか?」はやる気持ちを抑え、出来るだけ冷静に努める。
「実は私……」
 すると突然、顔が真っ青になり、やよいはうめき声を上げながら、胸を押さえだした。明らかに尋常でない様子で、大声で店員を呼びながら、彼女の隣に移動した。
 背中をさすり、息も絶え絶えのやよいの手をしっかりと握る。もちろん心を読むためではない。
「大丈夫ですか? 今すぐ救急車を呼びますから、もう少しの我慢です」
 店内は騒然となり、駆け寄ってきたウェイターに向かって、一一九番に電話するように指示を出す。その傍ら、しっかりしろとやよいを抱きかかえた。だが、既に虫の息で、何かを訴えようと口をパクパク動かすが、言葉にはならず、やがて息絶えてしまった。
 その時、頭に浮かんだ言葉は……。
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