第21話

文字数 1,030文字

 少し気まずくなり、水嶋は周りに目を向けると、既に客席は半分ほど埋まっているようだった。なかなかの人気店らしく、ボーイやホステスたちが、せわしなく動き回っている。

 どうしようか迷っているところで、蝶ネクタイを締めたボーイが現れ、「もうすぐ時間ですが、いかが致しましょう」と告げた。
 延長したところで、もうこれ以上の収穫はないと判断し、もう帰りますと言いかけたところで、奥から一人の女性が現れた。
 どうやら美穂子のようで、早速ホールデビューらしい。歩き方がたどたどしい上に、表情もぎこちなかったが、恰好はなかなか様になっているように思えた。目が合うと、軽くウインクをしてきて、そのまま他のテーブルについた。
 カードで会計を済ませた水嶋は、三つ先のテーブルで談笑している美穂子から視線を外し、ゴールドヘヴンを出た。

 美穂子の勤務が終わるのを待つ間にネットカフェへ入り、事件について新しい情報が転がっていないか、パソコンを起動する。
 事件性の無いただの転落事故では関心が薄いらしく、事件の記事は少なかった。たまにそれらしい情報を見つけても、根拠が乏しかったり、眉唾もののデマばかり。
 結局、小一時間ほどネットサーフィンしたが、参考になるような情報は掴めなかった。
 続いてゴールドヘヴンについても検索したところ、ホームページが見つかり、前のめりでクリックした。当たり前だがスマートフォンのサイトよりも詳細なデータが掲載されている――かと思ったが、実際に掲載されている情報は、スマホのそれと大差なく、簡単な店の紹介とキャストのプロフィールくらいだった。
 サイトには所属するホステスたちの顔写真が載っていて、当然、やよいやみやびの名前もあった。見た目の印象が違うところを見ると、修正が施されているのだろうと推測した。
 そこにはチーママである幸田志穂の名前があり、昨日会ったばかりだというのに懐かしさを憶えた。もうこの世にいないと思うと、どこからか吹き付ける冷たい風が胸を通り抜けていった。いずれこの画像も消されるだろう。数日後には、まるで初めから存在しなかったかのごとく、彼女の抜けたサイトが更新されるはずだ。
 物悲しい気持ちでマウスを操作しながら、店長についての情報を探してみる。
 だが、隅々までクリックしても見当たらず、顔写真どころか名前すらなかった。こういった店はホステスがメインなので掲載されてなくてもおかしくはないのだろう。ここは美穂子に期待するしかなさそうだ。
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