第30話

文字数 1,012文字

 一夜明けてテレビをつけてみると、ちょうど朝のワイドショーが流れていた。幸田志穂の転落事件に関して、新しい情報はないかと食い入るように見つめていると、政治家がらみのニュースが終わった直後、その報道がなされた。
 警察から新しい事実が公表されたらしく、画面内では神妙な面持ちの村崎(むらさき)という警部補が、緊張した面持ちで会見を行っている。これまで深夜未明としか明らかにされていなかった死亡推定時刻が、午前二時前後であることが語られた。これは志穂の下の階の住人が、同時刻に彼女のものと思われる悲鳴を聞いていたことや、司法解剖の結果から導き出されたもので間違いないと強調していた。以前調べたネットの情報では午前一時ごろとなっていたので、ほぼ一致する結果となった。
 また、動機については未だに確定されていないものの、体内からアルコールが検出されたことを受け、泥酔した彼女が、なんらかの弾みで衝動的に飛び降りたのではないかとの見解を示していた。さらに部屋の鍵が二本あるはずだが、そのうち一本はリビングにあったバッグから発見されるも、残りはどこにもなかったらしい。複製出来ないタイプなので、合鍵の存在は否定され、おそらく失くしたか、誰かが持っているのだろうという説明だった。
 それ以上の新事実は公表されず、このままでは自殺の方向で処理されそうな印象を受けた。
 リモコンを操作し、天気予報に変わったテレビのスイッチを切ると、今度は新聞に目を通す。予想した通りではあったが、そこにはテレビで語られた以上の情報は皆無だった。一縷(いちる)の望みを託し、水嶋はノートパソコンを開く。
 ネットでは相変わらず憶測だけが独り歩きし、ドロドロの愛憎劇や麻薬常習者など、様々な説が面白半分に書きまくられていた。
 それらの乱立する情報の中で水嶋は、興味深い書き込みをいくつか見つける事が出来た。それは神林についての噂だった。彼は、ナイトクラブやキャバクラなどの夜の店を経営する傍ら、投資家としての側面もあり、美味しい話があるとすぐに飛びつくらしい。また、妻である神林公子(きみこ)とは、現在別居中であることも記載されていた。加えて脱税の噂までが取りざたされていた。
 どれも信憑性があり、頭の片隅に入れておいても損はないと思えた。
 そこで水嶋はあるアイデアを思い立つ。さっそく文書を検索し、コピペで書類を作成すると、意気揚々と部屋を飛び出し、愛車に乗った。

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