第37話

文字数 781文字

 帰り際に何気なく部屋の奥を見ると、さっきの女子高生がパイプ椅子に腰かけながら本を開いていた。タイトルは判らなかったが、英字であることは確かだ。彼女の脇には流し台があり、ビキニ姿の金髪モデルが腰に手を当てながらポーズを決めている。知らない顔だったが、何処かで見た記憶があった。きっと有名なモデルに違いない。目を凝らすと、ポスターの下の部分に、直筆のサインらしきものが確認できた。
 去り際に握手を求めると、高野内は快く応じ、にこやかな笑顔を振りまいている。
「ところであのポスターは誰ですか? ……いえ、あまりに美人だったので、気になったんです」
「貰いものなので誰だか知らないんですよ。良かったら差し上げましょうか?」
 高野内の申し出に、それには及びませんと、拒否を示す。
 頭に浮かんだのは『えいら』。やはり知らない訳がなかった。聞き覚えがある名前だったが、やはり思い出せずにいた。美穂子は明らかに機嫌が悪かったが、気づかないふりをしながら高野内探偵事務所を後にした。
 
 ビルを出たところでスマートフォンを取り出し、『えいら モデル』と検索したところ、ポスターの美女は、グラビアアイドルの大野城エイラであることが判明した。
 そこで水嶋は思い出した。大野城エイラといえば、今人気のトップグラビアアイドルで、引きこもり時代にテレビで観たことがあった。ファンというほどではないが、当時は憧れたものである。画面をスクロールさせると、何やら、きな臭い噂話が躍っている。だが、あれだけの有名人にもなると、やっかみも酷いのだと鼻で笑い、そのまま画面を閉じた。

 昨日と同じビジネスホテルまで美穂子を送り届け、水嶋は甲の館に帰り着く。
 パソコンを開き、予約のメールを確認した後で、神林公子の名前を検索にかけてみた。だが、同姓同名の別人ばかりで、本人らしき人物のデータは得られなかった。
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