第78話

文字数 934文字

 乗車してから三十分後、ハイグランデに到着し、水嶋は正面の入り口へと向かう。途中、駐車場に一台の白いレクサスが止まっているのが気にかかった。高級タワーマンションなのだから、レクサス自体は珍しく無いのだが、何故かその車だけがエンジンを掛けっぱなしで、アイドリング状態になっていた。
 神林の車はチェックしていなかったが、もしかしたら彼かもしれないと、遠目から中を覗こうと目を凝らす。運転席にサングラスをかけた男性がいることは間違いないが、窓にはスモークが張られていて、正体までは判断できない。
 気になりつつもそのまま素通りし、入り口の自動ドアの横にある端末の前に到着すると、神林の部屋番号を入れた。たが、何度押しても反応はなく、居留守を使っているのか、本当に留守なのか判断がつかない。パスワードも美穂子しか知らないので、中に入ることが出来なかった。あの時、強引にでも訊いておくべきだったと後悔した。
 悩んだ挙句、水嶋はコンシェルジュを呼び出し、ドア越しに大変なことが起こっているからと事情を説明し、ドアを開けるように説得を試みた。だが、職務に忠実なコンシュルジュは、白黒の髪で革ジャン、しかも額から血を流している如何にも怪しい男の戯言に、耳を貸そうとはしない。それどころか「これ以上、騒ぎ立てると警察を呼びますよ」と警告されると、水嶋は返す言葉がなかった。

 壁にもたれながら、暫くドアの前で立ち往生していると、サイレンが鳴り響いた。
 待ってましたとばかりに喜び勇んで表に出ると、予想通り、到着したパトカーから村崎警部補が現れた。黒木巡査部長も一緒だ。
 傷だらけの水嶋を見るなり、心配の声をかけてきたが、大丈夫ですとガッツポーズを見せ、問題ないことをアピールする。本当は立っているのもやっとだが、今は美穂子の安否が最優先であり、まして病院に行く気などさらさらなかった。
 村崎はバッジをコンシェルジュに提示し、自動ドアを開けせた。
 刑事たちに続いて水嶋も中に入ろうとするが、ここに待機していろと怒鳴られた。それでも幸田美穂子が心配だと食い下がり、何もしないという条件付きでようやく同行を許された。
 コンシェルジュも一緒に来いと命じられ、困惑気味な彼と共にエレベーターへ向かう。

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