第105話

文字数 1,174文字

 メモを取り終えると、村崎はため息をついた後で水嶋を見据える。
「話はよく判りました。ですが、事件の全貌に至っては、皆目、見当もつきません。あなたは全てご存じなんでしょう? 真相を話していただきませんか。何か言えない理由がおありなのかもしれませんが、現実に六名もの尊い命が失われているのです。ぜひとも協力してください」
 この通りですと頭を下げられ、水嶋は腕を組みながら、煙草をふかす。白い煙が薄く漂う中、少しだけ前のめりになった。
「これ以上、何もお話しすることはありません……と、言いたいところですが、警部補にはいろいろと迷惑を掛けましたし、今回は特別に話しましょう……但し、オフレコという条件を受け入れるのならば、ですが」
 承知しましたとばかりに頷きを見せると、村崎は手帳を仕舞い、ボイスレコーダーのスイッチを切った。
「これから話すことは、あくまでも憶測にすぎません。それに非現実的でもあります。信じられなくても当然でしょう」
 両手の指を絡めながら、村崎は期待の表情で固唾を飲んでいる。確認するまでもなく、何を聞いても納得するといった構えを見せていた。
「まずは占いをさせてください。あれこれ口で説明するよりも、そのほうが早い」
 ゴールデンヘヴンでもやったので、またかと呆れられると予想したが、村崎は意外にも率先して右手を差し出してきた。もちろん手の甲を上にして。水嶋はそれを軽く握り、あなたは結婚していますかと問うた。
 村崎が答えをよこす前に、配偶者の名前や子供が二人いることを言い当てた。彼は驚きのあまり絶句して、感嘆の声を漏らしながらも、狼狽を隠し切れないでいる。
「……実は占いでも何でもありません。私には特別な力があるんです」と、物心ついた時には、既にテレパシーがあったことを打ち明けた。
 それでも疑いの目を向ける村崎に、今度は苦手な食べ物や、初恋の相手の名前。ついにはへそくりの金額まで読み取り、その場ですぐに暴露した。これにはさすがの警部補も参ったらしく、これは信じざるを得ないと、冗談めかしながら諸手を挙げた。
 ここまで来た以上、後の話はスムーズに進んだ。
 神林にはテレポーテーションの超能力がそなわっていて、それを実際に目撃したことを語る。
「では、すべての犯行は神林典行が企てたもので、水嶋さんを絞め殺そうとしたタイミングで急死したのですか? でも、それではやよいという源氏名の坂原藍子の場合はどうなるんです。彼女もやはり偶然だと?」興奮したのか、彼の口調は少々荒くなった。
 違いますとハッキリ否定したのちに、こう言い切った。
「偶然ではありません。実は美穂子……幸田美穂子さんにも特殊な能力があったんです。その力によって神林とやよいさん、いや坂原藍子さんは殺されたんです」
 二本目の煙草の煙が漂う中、水嶋はそう答えるしかなかった……。
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