第63話

文字数 664文字

 次に向かったのは衣裳部屋の隣の部屋で、扉を開けて照明を入れる。
 と、そこは仕事部屋らしく、壁中に本が並んでいて、中央に堂々と設置してある大型のデスクには、デスクトップパソコンが一台だけ鎮座していた。
 なにか手がかりになるようなものはないかとパソコンを起動させると、パスワード入力画面になった。さすがにパスワードなど知る由もなく、試しに適当な文字や数字を打ち込んでみるが、モニターには『パスワードが違います』と、冷たい表示が出るだけだった。
 その後も数回試してみるものの、一向に開く気配はない。

 パソコンを諦め、今度はデスクの引き出しを開けていく。
 一つだけ鍵のかかった引き出しがあったが、それ以外の引き出しには、仕事関係と思われる書類やペンや定規などの文房具ばかりが入っていた。ロックしてある引き出し以外を、全て調べ終えても、志穂や森村につながるような証拠は何も見つからない。開かずの引き出しは美穂子にピッキングしてもらうしかないと、後回しを決めた。

 次は本棚に目を向けた。背表紙を一冊ずつ見て回るが、どれも専門書やビジネス関係の書籍ばかりで、興味をそそるような本は一冊も見当たらない。せめてアルバムでもあればと肩を落としていると――。

 ガチャリ。
 背後から鈍い音がして、途端に身体が凍り付いく。咄嗟にデスクの裏へ身を隠し、屈み込みながら息を潜めた。こちらへ近づく微かな足音が鼓膜を揺すり、破裂しそうな勢いで心臓の鼓動が躍動した。
 足音がデスクの脇で止まり、こちらを覗き込む気配を感じた。もう駄目だと両手で頭を抱えた瞬間――。
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