第22話

文字数 1,163文字

 久しぶりの深酒とナイトクラブという慣れない場所での緊張のため、疲労感が訪れた。
 そこで一時間ほど仮眠したころ、美穂子からメールが届いた。
 『今終わったから、どこかで合流しましょう』
 そこで水嶋は、『ヴィオレッタにて待つ』と大まかな住所と共に返信した。
 ヴィオレッタとはゴールドヘヴンから少し離れた二十四時間営業イタリアンレストランだ。

 ヴィオレッタの駐車場に入ると、ちょうど美穂子もタクシーから降りたところだった。ちょうど午前二時をまわったところだった。
 二人は夕食――というより、夜食を取りながら、互いの得た情報を交換した。
 まずは水嶋が店で聞いた話を切り出す。新たな容疑者として、ゴールドヘヴンの店長が浮び上ったことを伝えると、美穂子は「えっ」と驚きの声を上げた。
「私が面接を受けたのは、店長の志垣(しがき)さんという男の人だったけど、とてもそんな風には見えなかったわ。物腰が柔らかくて、女性の扱いにも長けているみたいだったし……まさかそんなトラブルを抱えているようには……」意外そうな表情で美穂子は言った。
 だが、人は見かけによらないものだ。占いを装いながら人の内面を読んできた水嶋だからこそ、人間の本性というものを嫌というほど感じてきた。大人しそうな人に限って裏では残酷なことを考えていたり、強気な人ほど案外怯えていたりしている。
「志垣店長の件は追々調べるとして、君の方こそ何か情報を掴んだのかい?」
 美穂子は残念ながらと首を振った。
 仕方あるまい。まだ初日なので、そんな余裕などなかったのだろう。だが、志垣という新たな容疑者が浮上したのは大きな収穫だ。テレパシーのおかげとはいえ、この情報を得ただけでも御の字といえる。

 カルボナーラを食べ終えた水嶋は、タバスコのたっぷりかかったナポリタン(もちろん大盛)を、美味しそうに食する美穂子に呆れながら、ぼんやりと窓の外を眺めてみた。国道に面しているので、大型トラックが頻繁に行きかっていた。そこへ八台ほどのバイク集団が現れ、派手な爆音を響かせながら疾走していく。今どき暴走族とは珍しい。馬鹿な連中だなと美穂子に同意を求めると、彼女にはレディースの知り合いがいるらしく、「彼らの気持ちもわからなくもないわ」と、達観した表情を見せた。

 店を出ると、予約しているというビジネスホテルに美穂子を送り届けた。水嶋はどこにもよらず、自宅のある雑居ビルに帰宅する。
 部屋に入ったとたんに欠伸が出た。ネットカフェで仮眠したにもかかわらず、襲ってくる睡魔にあらがえないでいた。
 取るものもとりあえず、上着と靴下を脱ぎ捨て、そのままベッドに突っ伏した。
 幸田志穂の儚げな顔を思い出しながらまぶたを閉じた水嶋は、闇へと真っ逆さまに下っていく。――いや、志穂ではなく美穂子だったのかもしれない。
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