第18話
文字数 1,182文字
うどんを食べ終わると、二人はメールアドレスの交換をしたのちに、美穂子を乗せて車を走らせた。以前から憧れていたという三軒茶屋の美容室の前に下ろすと、「また後で」と、手を振りながらアクセルを踏み込んだ。
果たして上手くいくだろうか――。
だが、もし、正体がバレずにいたら、志穂譲りの美貌の持ち主なのだから、採用されるのはほぼ確定。加えて彼女ほどの積極さがあれば、有益な情報を得ることも、さして難しくはないだろう。
美容室のすぐ近くにタワーレコードがあることを思い出すと、孤高の占い師はハンドルを素早く右に切った。
タワーレコードに到着するなり、洋楽コーナーのある三階へ向かう。エスカレーターに乗ったところで、今度は別の可能性が浮上し、急に不安がこみ上げてきた。
いくらメイクで誤魔化すとはいえ、志穂と愛人関係にあった神林自身が、直接面接をしたら……。もし彼が幸田志穂を殺害したのであれば、美穂子にも危害が及ぶかもしれない。
最悪の事態を想定すると、背筋が凍らずにはいられなかった。
エスカレーターに揺れながら、その旨を美穂子にメールで知らせると、『その時はその時よ。このまま手をこまねいていてはいられないわ』と返信が来た。
こうなったら彼女の言う通り、なるようになると自分に言い聞かせた。
ひとまず美穂子の心配はやめて、今はCDの物色に専念する。
五分ほどで贔屓(ひいき)にしているロックバンドの最新アルバムを見つけると、興奮しながらレジに並んだ。
タワーレコードを出た水嶋は、二軒隣のパチンコ屋でしばらく時間をつぶしていると、いよいよ開店時間である六時が迫っていた。
「いらっしゃいませ、ようこそゴールドヘヴンへ。ご指名はございますか?」
歓楽街のビルの2階にその店はあった。店に入った途端、白シャツで蝶ネクタイ姿の若いボーイが頭を下げてくる。髪を茶色に染めているが、清潔感があり、丁寧な口調で好感が持てた。さすがは高級ナイトクラブだと、水嶋は感心した。
だが、いざ店内を見渡すと、安っぽい間接照明に無骨なデザインのテーブル。さすがにソファーはチープさを感じないが、デザインはニトリのと大差ない印象だった。
店内BGMは今流行りの歌のインストゥルメンタルと、高級クラブと謳っている割には、場末のキャバクラと大差ないように思えた。
もっとも、ナイトクラブと呼ばれるところに入店するのは初めてだし、キャバクラとの違いもはっきりしない。よって実情はこんなものかもしれないと思い直した。
こういう場所に慣れない水嶋は、面食らいながら、初めてだと告げると、ボーイは笑顔を絶やさず、奥から二番目のテーブル席に案内した。まだ開店間際であるためか、他の客の姿はない。何だか居心地の悪さを感じ、少し早すぎたかと後悔した。が、今さら帰るのも気が引けるので、そのまま居座ることにした。
果たして上手くいくだろうか――。
だが、もし、正体がバレずにいたら、志穂譲りの美貌の持ち主なのだから、採用されるのはほぼ確定。加えて彼女ほどの積極さがあれば、有益な情報を得ることも、さして難しくはないだろう。
美容室のすぐ近くにタワーレコードがあることを思い出すと、孤高の占い師はハンドルを素早く右に切った。
タワーレコードに到着するなり、洋楽コーナーのある三階へ向かう。エスカレーターに乗ったところで、今度は別の可能性が浮上し、急に不安がこみ上げてきた。
いくらメイクで誤魔化すとはいえ、志穂と愛人関係にあった神林自身が、直接面接をしたら……。もし彼が幸田志穂を殺害したのであれば、美穂子にも危害が及ぶかもしれない。
最悪の事態を想定すると、背筋が凍らずにはいられなかった。
エスカレーターに揺れながら、その旨を美穂子にメールで知らせると、『その時はその時よ。このまま手をこまねいていてはいられないわ』と返信が来た。
こうなったら彼女の言う通り、なるようになると自分に言い聞かせた。
ひとまず美穂子の心配はやめて、今はCDの物色に専念する。
五分ほどで贔屓(ひいき)にしているロックバンドの最新アルバムを見つけると、興奮しながらレジに並んだ。
タワーレコードを出た水嶋は、二軒隣のパチンコ屋でしばらく時間をつぶしていると、いよいよ開店時間である六時が迫っていた。
「いらっしゃいませ、ようこそゴールドヘヴンへ。ご指名はございますか?」
歓楽街のビルの2階にその店はあった。店に入った途端、白シャツで蝶ネクタイ姿の若いボーイが頭を下げてくる。髪を茶色に染めているが、清潔感があり、丁寧な口調で好感が持てた。さすがは高級ナイトクラブだと、水嶋は感心した。
だが、いざ店内を見渡すと、安っぽい間接照明に無骨なデザインのテーブル。さすがにソファーはチープさを感じないが、デザインはニトリのと大差ない印象だった。
店内BGMは今流行りの歌のインストゥルメンタルと、高級クラブと謳っている割には、場末のキャバクラと大差ないように思えた。
もっとも、ナイトクラブと呼ばれるところに入店するのは初めてだし、キャバクラとの違いもはっきりしない。よって実情はこんなものかもしれないと思い直した。
こういう場所に慣れない水嶋は、面食らいながら、初めてだと告げると、ボーイは笑顔を絶やさず、奥から二番目のテーブル席に案内した。まだ開店間際であるためか、他の客の姿はない。何だか居心地の悪さを感じ、少し早すぎたかと後悔した。が、今さら帰るのも気が引けるので、そのまま居座ることにした。