第19話

文字数 781文字

 しばらく気をもんでいると、二人のホステスが案内され、挨拶をしながら水嶋の両側に座る。
 右の娘(こ)は『みやび』と名乗った。肩に触るくらいの薄い茶髪のショートヘアーで、いかにも今どきの娘らしく、さばさばした話口調が鼻につく。高級ナイトクラブといえど、ホステスのレベルはこんなものかと落胆を憶えた。
 年齢を聞くと二十二歳と答えたが、軽く手を触ると、本当は二十六歳だということが判る。年相応に思えただけに多少ショックを受けた。だが、年齢を偽るのは、この業界では常識である……と何かで目にしたことを思い出した。
「お名前を訊いても?」
「あっ、……水嶋……です」狼狽しながら返事をした。実は偽名を考えていたのだが、とっさに出てこず、つい本名を名乗ってしまい、水嶋は落胆した。
 失態を誤魔化すかのように、左に座った女性に顔を向けた。
 みやびとは対照的に、彼女は大人らしい落ち着いた雰囲気を漂わせていた。髪は艶やかな漆黒で、胸元まである黒のストレート。肩を露出した紫色のナイトドレスが、大人びた印象をさらに向上させていた。
 渡された名刺には『やよい』とあった。さり気なくウイスキーの水割りを作る仕草を見ると、あまり詳しくはない水嶋でも、かなりのベテランであると察した。年齢は三十二と言ったが、それが妥当に思え、わざわざ触れてまで確かめようとはしなかった。
 左手首に包帯が巻かれているのが袖口からわずかに覗き、思わず動揺してしまう。左手首の包帯といえば……。
 デリケートな問題だけにスルーしようかと悩んだが、情報収集のためにここに座っていることを思い出す。左手の包帯について、なるだけ不自然にならないよう、どうしたのかと雑談風に尋ねてみた。笑いながら返ってきたやよいの答えは「三日前に転倒して捻挫したの」だった。
 良からぬ想像をしてしまった水嶋は、胸の内でごめんなさいと謝った。
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