第14話

文字数 807文字

 美穂子は考えあぐねた挙句、こんな質問をぶつけてきた。
「……じゃあ、私が、今欲しいものは何かわかるかしら? もちろん姉には伝えてないわ」不敵な顔を浮かべると、「どう?」と挑発的な色を浮かべながらコーヒーを飲み干した。
 負けじとこっちも飲み切り、大げさに首を鳴らす。
「どれどれ、占ってしんぜよう」
 今度は右手を差し出すように促すと、おもむろに出されたその手をそっと掴む。浮かんだ言葉は『ぴあの』だった。
「なるほど。響頼芯線が出ていますね。もしかして楽器か何かですか? しかも、結構大きな物ですね」
 美穂子は押し黙ったまま口を開こうとはしない。だが、片眉がわずかに上がるのを水嶋は見逃さなかった。予想以上の反応に手ごたえを感じ、口元が緩むのを抑えることができなかった。
「……信じてもらえたかな? これだけでも五千円分の価値があると思うけどね。美穂子さん」
 呆気にとられる美穂子に、今度は志穂の情報を語るよう催促した。
「そ、そうね。判ったわ。……姉とはもうずいぶん会っていないの。かれこれ五年くらいかしら。たまにメールや電話くらいはしていたけどね。もう知っているかもしれないけど、姉は水商売をしているの。……風俗じゃないわよ。あくまでもナイトクラブのホステス。……一緒にいた男は、おそらく神林(かんばやし)いう人だと思うわ。神林はそこのオーナーで、姉はチーママだったみたい。それで関係を持ったらしくて……」水嶋は、ナイトクラブとキャバクラの違いがよく判っていない。何となくナイトクラブの方が高級そうなイメージだったが、このタイミングで訊くのもどうかと思い、後で検索することに決めた。
 そうでしたかと相槌を打とうとしたところでウェイターがこちらのテーブルに近づき、美穂子の口はいったん止まった。ウェイターは、追加の注文はないのかよという目でカップを片付けるものだから、美穂子に確認を取った後でコーヒーをもう一杯ずつ頼んだ。
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