第8話

文字数 886文字

 最初の一週間は客足も少なく、ゼロの日もあった。格安の料金設定が裏目に出た模様で、低価格だと却って信用されなかったのかもと、水嶋なりに分析した。

 だが、客からの評価は上々で、すぐによく当たると評判になりだした。
 やがて口コミで広がったらしく、三か月もしないうちに、客足が途切れないようになっていった。
 考えてみれば当然だった。こっちはインチキをしているのだ。相手の手を握りながら質問を繰り返し、考えを読み取る。それを、さも占ったかのように氏名や住所、年齢や星座まで言い当てた。当然、的中率は百パーセント。
 ときたま、ペットを占ってほしいと一緒に来店する客もいたが、丁重に断った。猫アレルギーのためだが、人間以外には甲相が出ないと告げると、飼い主たちはそれで納得した。
 もっとも、アレルギーが無かったとしても、動物にテレパシーは効かないので、土台無理な話だったが。

 評判が評判を呼び、いつの間にか、月収は五十万を超えた。
 しかも、最近発覚したことだが、この商売のメリットの一つに、脱税のし放題がある。納税申告書に採算ぎりぎりの数字を記入すれば良いのだ。占いに来て領収書を求める人などまずいない。虚偽の申告をしたところで、脱税が発覚する恐れなどほぼ無いと言って良い。
 両親には開店資金を現金で返し、利子として旅行にまで招待した。二人とも、息子の仕事をちゃんと理解してはいなかったが、それでも社会復帰が出来たと、涙ぐみながら喜んだ。

 だが、しばらくして誤算が生じた。
 あまりに的中率が高いので、八百長しているのではないかという噂が立ってしまったのだ。「探偵でも雇っているのではないか」「客のSNSをチェックしているに違いない」――そんな悪評が広まると、甲の館は途端に閑古鳥が鳴くようになった。

 結局二年もしないうちに、閉店せざるを得ない状況に追い込まれてしまう。
 しかも、被害はそれだけにとどまらず、甲の館が地元であったがために、厳徳寺歳三の正体が、水嶋猛であることは即座にバレてしまった。
 こうなると外を歩くことさえままならなくなり、失意の占い師は再び引きこもるようになった。
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