第64話
文字数 1,033文字
「なにビビッてんの? 大のオトナが」
えっ?
顔を上げると、そこには小悪魔的な微笑を称えた美穂子が立っていた。
明らかにチビりかけていたが、そんなことはおくびにも出さず、「……ビビってるわけないだろ。床に何か落ちていないか調べていたところさ」と、床に這いつくばってみせた。声が上ずっていたが、それでも強がりを言わずにはいられなかった。
「そうかしら? それにしては……」言いかけて、すぐに口をつぐんだ。美穂子は手にした写真を差し出してきた。「まあいいわ。それよりこれを見て」
写真を受け取った水嶋が目を落とすと、わが目を疑った。なんとそこには美穂子が写っていたのだ。
だが、それにしては少し印象が違っているように感じた。
「これって……まさか!」水嶋は視線を美穂子に向けた。
「そのまさかよ」
そこに写っていたのは幸田志穂だった。僅かだが鼻の右の付け根に“ほくろ”が確認できる。
どこにあったのかと問いただすと、寝室のサイドテーブルの中との返事だった。
さらに写真をめくると、神林とのツーショットが数枚あり、二人の関係は決定的なものとなった。水嶋はツーショットの写真を一枚だけ抜き取り、ズボンの後ろポケットに収める。そして二人一緒に寝室に向かい、写真をサイドテーブルに戻した。
その時だった。
玄関の方から、ガチャリという鍵を回す音が鳴り響くと、すぐさま神林の声が聞こえてきた。
『あれ? 公子か? 今夜は帰っているのかい? 珍しいな。もう男遊びなんて懲りただろう。たまには一緒に晩酌でもどうだ』
部屋の照明が点灯していたので、公子夫人が帰宅していると勘違いしているようだ。時計を見ると、針は十一時半過ぎを指していて、侵入してから既に一時間以上が経過していた。
神林が帰宅した以上、見つかるのは時間の問題。扉に耳をあてがいながら様子をうかがっていると、パタパタとスリッパの音が迫ってくるのが判る。
『もしかして、もう寝てるのかい?』神林の猫なで声が、耳の奥に突き刺さった。
水嶋は美穂子の手を引き、大急ぎでベッドの奥に身を忍ばせた。手袋をしているので、美穂子の心の声は何も浮かばないが、そんなことはどうでもいい。喉がカラカラに乾き、足の震えも止まらない。緊張しながら身構えていると、足音が寝室の前で止まった。
ドアノブが回転する響きが鳴ると、口から心臓が飛び出しそうになる。美穂子からも震えているのが如実に伝わってくる。
いよいよ神林が入室しようとした、その時だった……。
えっ?
顔を上げると、そこには小悪魔的な微笑を称えた美穂子が立っていた。
明らかにチビりかけていたが、そんなことはおくびにも出さず、「……ビビってるわけないだろ。床に何か落ちていないか調べていたところさ」と、床に這いつくばってみせた。声が上ずっていたが、それでも強がりを言わずにはいられなかった。
「そうかしら? それにしては……」言いかけて、すぐに口をつぐんだ。美穂子は手にした写真を差し出してきた。「まあいいわ。それよりこれを見て」
写真を受け取った水嶋が目を落とすと、わが目を疑った。なんとそこには美穂子が写っていたのだ。
だが、それにしては少し印象が違っているように感じた。
「これって……まさか!」水嶋は視線を美穂子に向けた。
「そのまさかよ」
そこに写っていたのは幸田志穂だった。僅かだが鼻の右の付け根に“ほくろ”が確認できる。
どこにあったのかと問いただすと、寝室のサイドテーブルの中との返事だった。
さらに写真をめくると、神林とのツーショットが数枚あり、二人の関係は決定的なものとなった。水嶋はツーショットの写真を一枚だけ抜き取り、ズボンの後ろポケットに収める。そして二人一緒に寝室に向かい、写真をサイドテーブルに戻した。
その時だった。
玄関の方から、ガチャリという鍵を回す音が鳴り響くと、すぐさま神林の声が聞こえてきた。
『あれ? 公子か? 今夜は帰っているのかい? 珍しいな。もう男遊びなんて懲りただろう。たまには一緒に晩酌でもどうだ』
部屋の照明が点灯していたので、公子夫人が帰宅していると勘違いしているようだ。時計を見ると、針は十一時半過ぎを指していて、侵入してから既に一時間以上が経過していた。
神林が帰宅した以上、見つかるのは時間の問題。扉に耳をあてがいながら様子をうかがっていると、パタパタとスリッパの音が迫ってくるのが判る。
『もしかして、もう寝てるのかい?』神林の猫なで声が、耳の奥に突き刺さった。
水嶋は美穂子の手を引き、大急ぎでベッドの奥に身を忍ばせた。手袋をしているので、美穂子の心の声は何も浮かばないが、そんなことはどうでもいい。喉がカラカラに乾き、足の震えも止まらない。緊張しながら身構えていると、足音が寝室の前で止まった。
ドアノブが回転する響きが鳴ると、口から心臓が飛び出しそうになる。美穂子からも震えているのが如実に伝わってくる。
いよいよ神林が入室しようとした、その時だった……。