第47話
文字数 1,481文字
「……初めまして、すみれです」すみれはたどたどしい声で会釈をした。
見覚えが無かったので、みやびに訊いてみると、一昨日入ったばかりとのこと。美穂子からは聞いていなかったので、少々戸惑った。
事件に関係ないであろう新人を、わざわざ話す必要がないと美穂子は判断したのかもしれない。
すみれは物静かなタイプだった。ストレートの黒髪に、すっきりとした目鼻立ち。まるで財閥のお嬢様のような印象だった。彼女は顔をこわばらせ、緊張しているのが露骨に伝わってくる。新人とはいえ、まるでお化けを怖がる子どものように怯えている。
年齢を聞いてみると、十九歳ですと答えた。
緊張をほぐすためなのか、みやびが助け舟をだす。
「水嶋さんは占いをやっているの。すっごく当たるから、すみれもみてもらえば?」
占いと聞いて興味を持たない女性はほとんどいない。それはすみれとて例外ではなかった。
柔らかな笑顔になった彼女は、これまでの物静かさはどこへやら、途端に饒舌になる。
「私、昔から占いに目がないんです。何が専門ですか? タロットなら私も少しはできるんですよ」
そこで水嶋は甲相だと話すと、すみれは首を捻りだした。
水嶋は彼女の手を軽く握ると、家族構成を言い当てた。ついでに実年齢が十七歳であることが知れたが、さすがに明かす気にはならない。年齢を偽ってまで働いているということは、彼女にもそれなりの事情があるのだろう。一見、世間知らずのお嬢様に思えるすみれも、案外、苦労しているのだなと、同情せずにはいられなかった。
あとは判で押したような占いを施したところで、志穂の事を訊いてみた。予想通り、すみれは、知らないと答え、同じ意味のメッセージを読み取った。今回の事件に無関係であることは確かなようだ。
偶然通りがかった志垣店長にも占いを誘ってみたが、彼は丁重に断りを入れてきた。この前の件が尾を引いているのかもしれない。
志垣の人柄について、みやびに振ってみると、「人当たりが良くて優しいけど、一方で頼りない所もあって、店長としてはどうかしら?」と、首を傾げる。
だが、その後に興味深い情報を付け加えた。
「……店長って、時々、勘が鋭い所があるの。この前なんか、……あっ、これは私じゃなくて別のホステスの話なんだけど」と前置きしたのちに、「ここに勤めながら、ライバル店でこっそりアルバイトをした事がバレてしまって、クビにされかけたらしいのよ」溜息を一つ吐くと「……その子は『誰にも言わなかったのに……』って、首を捻っていたわ」
そのホステスに同情するふりをしながら、みやびの手を覆うと、『なんでばれ』と浮かんだ。おそらく『何でバレたのかしら』と解釈すべきだろう。言葉の感じとニュアンスから、そのホステスはみやび自身である可能性が高い。
仮にそうだとしても、まるで他人みたいに話したのを責めるつもりはない。だが、それはライバル店でアルバイトしたみやびの責任であり、志垣店長からクビにされかけても、自業自得というもの。呆れずにはいられない水嶋であった。
追加情報がないかと、その後もみやびにいろいろと質問してみた。
が、もりむらという名前以外、知り得ることが出来ずにいた。
あれ以来、美穂子は水嶋の席に着こうとはしない。余程人気があり、他の客が手放さないのか、もしくは水嶋のテーブルに戻りたくないのか、定かではなかった。
実はこの時、美穂子はもりむらについて、常連客に訊いて回っていたらしい。
これ以上滞在しても得られる情報はないと判断した水嶋は、延長の有無を確認に来たボーイに対し、会計の意を伝えた。
見覚えが無かったので、みやびに訊いてみると、一昨日入ったばかりとのこと。美穂子からは聞いていなかったので、少々戸惑った。
事件に関係ないであろう新人を、わざわざ話す必要がないと美穂子は判断したのかもしれない。
すみれは物静かなタイプだった。ストレートの黒髪に、すっきりとした目鼻立ち。まるで財閥のお嬢様のような印象だった。彼女は顔をこわばらせ、緊張しているのが露骨に伝わってくる。新人とはいえ、まるでお化けを怖がる子どものように怯えている。
年齢を聞いてみると、十九歳ですと答えた。
緊張をほぐすためなのか、みやびが助け舟をだす。
「水嶋さんは占いをやっているの。すっごく当たるから、すみれもみてもらえば?」
占いと聞いて興味を持たない女性はほとんどいない。それはすみれとて例外ではなかった。
柔らかな笑顔になった彼女は、これまでの物静かさはどこへやら、途端に饒舌になる。
「私、昔から占いに目がないんです。何が専門ですか? タロットなら私も少しはできるんですよ」
そこで水嶋は甲相だと話すと、すみれは首を捻りだした。
水嶋は彼女の手を軽く握ると、家族構成を言い当てた。ついでに実年齢が十七歳であることが知れたが、さすがに明かす気にはならない。年齢を偽ってまで働いているということは、彼女にもそれなりの事情があるのだろう。一見、世間知らずのお嬢様に思えるすみれも、案外、苦労しているのだなと、同情せずにはいられなかった。
あとは判で押したような占いを施したところで、志穂の事を訊いてみた。予想通り、すみれは、知らないと答え、同じ意味のメッセージを読み取った。今回の事件に無関係であることは確かなようだ。
偶然通りがかった志垣店長にも占いを誘ってみたが、彼は丁重に断りを入れてきた。この前の件が尾を引いているのかもしれない。
志垣の人柄について、みやびに振ってみると、「人当たりが良くて優しいけど、一方で頼りない所もあって、店長としてはどうかしら?」と、首を傾げる。
だが、その後に興味深い情報を付け加えた。
「……店長って、時々、勘が鋭い所があるの。この前なんか、……あっ、これは私じゃなくて別のホステスの話なんだけど」と前置きしたのちに、「ここに勤めながら、ライバル店でこっそりアルバイトをした事がバレてしまって、クビにされかけたらしいのよ」溜息を一つ吐くと「……その子は『誰にも言わなかったのに……』って、首を捻っていたわ」
そのホステスに同情するふりをしながら、みやびの手を覆うと、『なんでばれ』と浮かんだ。おそらく『何でバレたのかしら』と解釈すべきだろう。言葉の感じとニュアンスから、そのホステスはみやび自身である可能性が高い。
仮にそうだとしても、まるで他人みたいに話したのを責めるつもりはない。だが、それはライバル店でアルバイトしたみやびの責任であり、志垣店長からクビにされかけても、自業自得というもの。呆れずにはいられない水嶋であった。
追加情報がないかと、その後もみやびにいろいろと質問してみた。
が、もりむらという名前以外、知り得ることが出来ずにいた。
あれ以来、美穂子は水嶋の席に着こうとはしない。余程人気があり、他の客が手放さないのか、もしくは水嶋のテーブルに戻りたくないのか、定かではなかった。
実はこの時、美穂子はもりむらについて、常連客に訊いて回っていたらしい。
これ以上滞在しても得られる情報はないと判断した水嶋は、延長の有無を確認に来たボーイに対し、会計の意を伝えた。