第101話

文字数 1,015文字

 美穂子がラーメンを食べ終わり、第二ラウンドの始まりを告げた。
 今度は美穂子の方が、先制攻撃を仕掛けてきた。
「公子さんの件だけど、鍵はどう説明するの? 姉のキーと一緒で、やはり二本しか存在しない訳だし、どちらも公子さんの部屋のバッグにあったでしょう? 見つけた時には、私も一緒だったわよね。もしかして、あなたの隙を見て、私がバッグに入れたと言いたいの? それとも神林のように、私にもテレポーテーションの力があるとでも?」
 まさか、美穂子自身からその話が出るとは思わなかった。だが、その説は否定せねばならない。
「いや、それは違う。もし君にその力があったのならば、森村の犯行を裏付けることが出来ない。あれからさらに検討してみたが、仮にテレポーテーションを使ったとこで、完全に痕跡を消すことなんて出来るわけがない。部屋に入れば必ず足跡が残るだろうし、外にワープさせても、土や草などがどうしても衣服に付着してしまう。警察がそれを見逃すわけがない……つまり犯人は、それ以外の方法を使ったんだ」
 ここからが正念場である。
 水嶋自身も超能力保持者なのだし、神林のテレポーテーションを目の当たりにしていたのだからこの推理にたどり着くことができたが、もし、そうでなければ、あまりに突飛すぎて、とても一般常識の範囲ではなかった。

 さすがの美穂子もしびれを切らしたようで、テーブルを勢いよく叩くと、その反動で立ち上がり、
「もういいでしょう! これ以上、あなたの与太話に付き合っているほど暇じゃない。そろそろ帰らせてもらうわ」言い終わると水嶋に背中を向けた。これ以上話を聞くつもりはないようだ。
 だが、ここで帰らせるわけにはいかなかった。まだ確信をついていない。別に彼女を警察に突き出すつもりはなく、ただ、真相を知ってしまった以上、このまま黙っておくわけにはいかないのだ。
「……俺を殺さないのか。君なら簡単にできるだろう? 神林や、やよいさんのように」
 美穂子の動作がぴたりと静止する。
 彼女はしばらく立ち止まった後、ようやく振り返って水嶋を睨みつけた。
「どういう意味? 二人とも心臓麻痺なはずでしょ。あれも私の仕業だと?」
「そうとしか考えられない。君には俺のようなテレパシーや、神林みたいなテレポーテーションの能力はない。だが、その代わり……」
 水嶋は敢えて言葉を遮断した。美穂子は蒼ざめた色を浮かべながら、あからさまに動揺を見せ、怯えているのが判る。
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