第43話

文字数 624文字

 美穂子が昇っていくのを見届けているうちに腹の虫が鳴った。さっき食べた焼きそばパンでは充分ではなく、大食漢ならぬ大食女子の美穂子も、きっと空腹に違いない。
 水嶋はハンドルを切り、その足でラーメン屋に向かい、夕食を済ませることにした。
 向かった先は、白龍ラーメンという、こじんまりとした個人経営の店で、以前から気になっていた店である。その店では全力ラーメンという看板メニューがあり、行列が絶えないそうで、一度は行ってみたいとかねてから気になっていた。美穂子を誘ってみようかと思わないでもないが、先に味を確認してからでも遅くはないと結論付けた。

 白龍ラーメンの暖簾(のれん)をくぐると、夕食時にも拘らず、客は一人しかいなかった。それも明らかに中学生くらいの男の子で、カウンターの隣の席に鞄を置いているところを見ると、学習塾の帰りのように思えた。
 今日は出直そうかと身をひるがえそうとしたが、店主らしき若い男と目が合ってしまい、足が止まる。今さら帰る訳にもいかず、渋々カウンターへ腰を下ろす。メニュー表を見ると、看板メニューの筈の全力ラーメンが見当たらない。
 店主に訊いてみると、とっくにやめたと、気のない返事が返ってきた。仕方なく白龍ラーメンを頼んでみるが、想像通り微妙な味だ。不味くはないが美味くもない。どこにでもあるような普通の味で、スープを半分ほど残して席を立った。
 モヤモヤした気持ちで何処かへ寄る気も起きず、水嶋はまっすぐ帰宅することにした。
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