ピリオド. ・2
文字数 1,116文字
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真新しいクロス張りの壁に視線を投じながら、見た目の重量感に比例したソファーの心地よさに身を委ねる。
広い窓際で穏やかな日光を浴びる観葉植物は改築祝いにと私の父が送ったもので、
一際目立つ場所に配置されたそれに城崎さんの配慮を感じた。
きちんと整理された事務所内をくるりと見渡せば、片付けに奮闘した彼の姿が垣間見えて眉が八の字に下がる。
(無理しなくていいって言ったのに…)
ここまで一人で片づけたとなると、なかなかの労力を費やしたに違いない。
目の前の埃一つないガラス製のセンターテーブルを見ながら、そっと溜め息をついた。
まだスタッフですら足を踏み入れていないというこの場所に、部外者である自分が真っ先に入り込んでもいいのだろうかと改めて恐縮していると、
「ごめんね、柚月ちゃん、待たせちゃって」
依頼主との電話で席を外していた城崎さんが、通話を終えて戻って来た。
「いえ、気にしないでください」
「ありがと。…あ。何か飲む?」
「大丈夫です。それより、少し座りませんか? 事務所に来てからずっと、依頼主さんたちとの電話で…、忙しいのは分かりますが、少し休憩しないとさすがに保 ちませんよ?」
「…ん、それもそうだね。じゃあ早速、柚月ちゃんの隣に——」
「えっ、」
「——と言いたいところだけど、今日はおとなしくこっちに座ろうかな」
「…、」
(敏感に反応しすぎだって…自分)
静かな笑みを湛えながら私と向き合う形でソファーに腰を下ろした城崎さんを、こっそり上目遣いに窺って沈黙する。
距離の近さを想像して思わず顔を赤らめてしまった自分が恥ずかしくて、さっきも眺めていた室内を、さも初見であるかのように物珍しそうに見澄ました。
「…はぁ…。やっと落ち着いてきた感じかな」
「ほんとにお疲れさまでした。すごく素敵な事務所ですね」
「ありがとう。柚月ちゃんにそう言ってもらえると、一番嬉しいよ」
「スタッフさんたちもこんなに素敵な事務所で働けて、きっと喜びますよ」
「そう? あの子たちがどう思うかは興味ないから別にいいけど」
「またそんな、素っ気ないこと言って…」
「いいの」
苦笑を向けた私を柔く制するように微笑んで、城崎さんはゆったりとソファーに背を預けた。
「…、ふぅ…、今夜はぐっすり眠れそうかな」
「……」
(…、あれ…?)
寛ぐ体に何気なく吐息と言葉を添えた城崎さんは、パッと見た感じいつもと何ら変わりない。
けれど、不意にちらつく微々たる表情の変化に、なんとなく違和感を覚えた。
「……」
気付かれないように注視していると、どこか病苦を思わせるような倦怠の色が浮かんでくる。
(もしかして、これは…)
懸命に隠し通そうとしているモノの正体に勘付いて、私は城崎さんを真っ直ぐに見据えた。
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真新しいクロス張りの壁に視線を投じながら、見た目の重量感に比例したソファーの心地よさに身を委ねる。
広い窓際で穏やかな日光を浴びる観葉植物は改築祝いにと私の父が送ったもので、
一際目立つ場所に配置されたそれに城崎さんの配慮を感じた。
きちんと整理された事務所内をくるりと見渡せば、片付けに奮闘した彼の姿が垣間見えて眉が八の字に下がる。
(無理しなくていいって言ったのに…)
ここまで一人で片づけたとなると、なかなかの労力を費やしたに違いない。
目の前の埃一つないガラス製のセンターテーブルを見ながら、そっと溜め息をついた。
まだスタッフですら足を踏み入れていないというこの場所に、部外者である自分が真っ先に入り込んでもいいのだろうかと改めて恐縮していると、
「ごめんね、柚月ちゃん、待たせちゃって」
依頼主との電話で席を外していた城崎さんが、通話を終えて戻って来た。
「いえ、気にしないでください」
「ありがと。…あ。何か飲む?」
「大丈夫です。それより、少し座りませんか? 事務所に来てからずっと、依頼主さんたちとの電話で…、忙しいのは分かりますが、少し休憩しないとさすがに
「…ん、それもそうだね。じゃあ早速、柚月ちゃんの隣に——」
「えっ、」
「——と言いたいところだけど、今日はおとなしくこっちに座ろうかな」
「…、」
(敏感に反応しすぎだって…自分)
静かな笑みを湛えながら私と向き合う形でソファーに腰を下ろした城崎さんを、こっそり上目遣いに窺って沈黙する。
距離の近さを想像して思わず顔を赤らめてしまった自分が恥ずかしくて、さっきも眺めていた室内を、さも初見であるかのように物珍しそうに見澄ました。
「…はぁ…。やっと落ち着いてきた感じかな」
「ほんとにお疲れさまでした。すごく素敵な事務所ですね」
「ありがとう。柚月ちゃんにそう言ってもらえると、一番嬉しいよ」
「スタッフさんたちもこんなに素敵な事務所で働けて、きっと喜びますよ」
「そう? あの子たちがどう思うかは興味ないから別にいいけど」
「またそんな、素っ気ないこと言って…」
「いいの」
苦笑を向けた私を柔く制するように微笑んで、城崎さんはゆったりとソファーに背を預けた。
「…、ふぅ…、今夜はぐっすり眠れそうかな」
「……」
(…、あれ…?)
寛ぐ体に何気なく吐息と言葉を添えた城崎さんは、パッと見た感じいつもと何ら変わりない。
けれど、不意にちらつく微々たる表情の変化に、なんとなく違和感を覚えた。
「……」
気付かれないように注視していると、どこか病苦を思わせるような倦怠の色が浮かんでくる。
(もしかして、これは…)
懸命に隠し通そうとしているモノの正体に勘付いて、私は城崎さんを真っ直ぐに見据えた。
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