消せない想い ・3
文字数 1,375文字
「なかなか急な話だな」
「こういうのって、意外といきなり話が舞い込んでくるから」
「…迷わずに決めたのか?」
「うん。前から加わってみたかった研究チームだったし」
そのことに関しては、嘘偽りのない事実だ。
ただ、他の理由もあって、今は日本から離れたいというのも本心だ。
(……もう、忘れなきゃ…)
脳裏にちらつく城崎さんの笑顔を、淡々とした表情の裏で懸命に掻き消した。
「…、」
最後の質問以降、言葉を区切った響也がやけに勘の鋭さを増している気がして、
何でもない素振りでまたコーヒーカップを手に取り、さっき味わったばかりの風味を再び口に含む。
「アメリカに来るのか…」
不意に独り言のように呟いた響也は、
『良いところに転がって来てくれた話だ』…と続けて、どこか言い含めるように目を細めた。
「そういうことなら、いっそ俺のパートナーになるか?」
「…え? なにそれ、パートナーって、私が?」
「そうだ。アメリカで生活するなら……もういっそ俺の妻になればいい」
「…っ、ええっ!!?」
「そうすれば、何一つ不自由なく暮らしながら、おまえの望む研究にも没頭できる」
「パ、パートナーって、そっち…!?」
「仕事関係のパートナーとでも思ったのか?」
「普通思うのはそっちでしょっ、いきなり<妻>とか言われるなんて思わないって!」
「いや、普通はパートナーといえば寄り添って生きることだと、そう真っ先に閃くのが一般的だと思うが…、まあ、少し鈍いところがあるおまえらしい解釈だったか…」
「悠然と自己完結しないでっ」
「とにかく、おまえなら申し分ない。こちらサイドの人間も文句ひとつ言わないだろう」
「いやいや、あのね、まず、あなたと私の住んでる世界が違いすぎるから!」
「そんなことはない、おまえならすぐに慣れる」
「慣れないよっ、何を根拠に——」
「俺が見込んだ女だからだ」
「…っ、」
「この目利きに関しては、何より自信がある」
「か、買い被りすぎだよ、無理だって…!」
左右に強く頭を振って謙遜する私を、響也は冷静な眼差しで尚も取り込もうとしてくる。
「…おまえは、俺のことが嫌いか?」
「き…、嫌いなわけないじゃん!もちろん好きだよ! でも、その……、好きっていうのは、なんていうか…、」
「……」
「友達としての好きであって…、恋愛って言うと、ちょっと違うっていうか…、」
「……」
「……その…、」
「……冗談だ」
「…へっ!?」
素っ頓狂に声を上げて肩を跳ねさせた私の姿に、響也はククッと低く笑った。
「今日会ったときから、おまえの様子がいつもと少し違った気がしたから、刺激を与えてみただけだ」
「し、刺激って——」
それってなんか、心臓に悪い刺激だよっ!…と、歯を剝くように言葉を走らせると、響也はさらに笑みを深める。
「おかげで面白いものが見れた」
「も、もう…、ほんとにびっくりしたよ…」
「…いつもの調子に戻れたか?」
「ま、まあね…、っていうか、なんかごめん…。つまりは、変に気を遣わせちゃったってことだよね?」
「いや。ただ、おまえのことを聞いたはずが、先に城崎という名前を聞かされたうえに、あいつの話ばかりされると、さすがにいい気はしなかった」
「…え、私、そんなに話しちゃってた?」
「自覚がないのか?」
「えっと……、うん…」
「思った以上に重症だな」
楽しげな笑顔を苦笑に変えた響也は一度視線を伏せた後、再び私に視軸を合わせた。
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「こういうのって、意外といきなり話が舞い込んでくるから」
「…迷わずに決めたのか?」
「うん。前から加わってみたかった研究チームだったし」
そのことに関しては、嘘偽りのない事実だ。
ただ、他の理由もあって、今は日本から離れたいというのも本心だ。
(……もう、忘れなきゃ…)
脳裏にちらつく城崎さんの笑顔を、淡々とした表情の裏で懸命に掻き消した。
「…、」
最後の質問以降、言葉を区切った響也がやけに勘の鋭さを増している気がして、
何でもない素振りでまたコーヒーカップを手に取り、さっき味わったばかりの風味を再び口に含む。
「アメリカに来るのか…」
不意に独り言のように呟いた響也は、
『良いところに転がって来てくれた話だ』…と続けて、どこか言い含めるように目を細めた。
「そういうことなら、いっそ俺のパートナーになるか?」
「…え? なにそれ、パートナーって、私が?」
「そうだ。アメリカで生活するなら……もういっそ俺の妻になればいい」
「…っ、ええっ!!?」
「そうすれば、何一つ不自由なく暮らしながら、おまえの望む研究にも没頭できる」
「パ、パートナーって、そっち…!?」
「仕事関係のパートナーとでも思ったのか?」
「普通思うのはそっちでしょっ、いきなり<妻>とか言われるなんて思わないって!」
「いや、普通はパートナーといえば寄り添って生きることだと、そう真っ先に閃くのが一般的だと思うが…、まあ、少し鈍いところがあるおまえらしい解釈だったか…」
「悠然と自己完結しないでっ」
「とにかく、おまえなら申し分ない。こちらサイドの人間も文句ひとつ言わないだろう」
「いやいや、あのね、まず、あなたと私の住んでる世界が違いすぎるから!」
「そんなことはない、おまえならすぐに慣れる」
「慣れないよっ、何を根拠に——」
「俺が見込んだ女だからだ」
「…っ、」
「この目利きに関しては、何より自信がある」
「か、買い被りすぎだよ、無理だって…!」
左右に強く頭を振って謙遜する私を、響也は冷静な眼差しで尚も取り込もうとしてくる。
「…おまえは、俺のことが嫌いか?」
「き…、嫌いなわけないじゃん!もちろん好きだよ! でも、その……、好きっていうのは、なんていうか…、」
「……」
「友達としての好きであって…、恋愛って言うと、ちょっと違うっていうか…、」
「……」
「……その…、」
「……冗談だ」
「…へっ!?」
素っ頓狂に声を上げて肩を跳ねさせた私の姿に、響也はククッと低く笑った。
「今日会ったときから、おまえの様子がいつもと少し違った気がしたから、刺激を与えてみただけだ」
「し、刺激って——」
それってなんか、心臓に悪い刺激だよっ!…と、歯を剝くように言葉を走らせると、響也はさらに笑みを深める。
「おかげで面白いものが見れた」
「も、もう…、ほんとにびっくりしたよ…」
「…いつもの調子に戻れたか?」
「ま、まあね…、っていうか、なんかごめん…。つまりは、変に気を遣わせちゃったってことだよね?」
「いや。ただ、おまえのことを聞いたはずが、先に城崎という名前を聞かされたうえに、あいつの話ばかりされると、さすがにいい気はしなかった」
「…え、私、そんなに話しちゃってた?」
「自覚がないのか?」
「えっと……、うん…」
「思った以上に重症だな」
楽しげな笑顔を苦笑に変えた響也は一度視線を伏せた後、再び私に視軸を合わせた。
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