Step by Step ・4
文字数 779文字
「っ、…もう、…あと少しなんだけど…っ、」
ようやく見つけた目当ての本は書棚の一番高い位置にあり、あとほんの数センチの手が届かない距離がもどかしくて、むくれたように上を凝視する。
「これは踏み台がいるな…」
「どれが欲しいの?」
「…!?」
「これ?」
「——!」
今では聞き慣れつつある声色に咄嗟に振り返れば、さっき別れたばかりの人物が緩く微笑んで書棚に手を伸ばそうとしていた。
「き、城崎さん…、ここで何やってるんですかっ」
「うん?」
「仕事、どうしたんですか?」
「もういいよ、ある程度片付いたから」
「そんな………、適当ですね」
「そうでもないよ? 何週間もかけての調査だったし」
「…それはそれは。お疲れ様ですね」
「どうも。…それより、欲しい本はどれ?」
「いいです、もう」
「え、どうして?」
「……別に」
「やっぱり、なんだか機嫌が悪いね」
「気のせいです。それじゃ」
なんだか居心地が悪くて立ち去ろうとした私を、城崎さんの質問が追いかけてくる。
「えっ、本は買わないの?」
「だから、もういいんです。また今度にしますから」
「そう…、じゃあ、一緒に帰ろう?」
「いえ、一人で帰ります」
どうしても冷たくあしらってしまいながら、その場を離れようと一歩踏み出したのに、いきなり伸びてきた長い腕と広い手が私の手首を絡め取った。
「ちょっ…、なにするんですか…っ」
「一緒に帰ってくれなきゃ、拗ねるよ?」
「す、拗ねる?」
「そう。僕が拗ねる」
「…ったく、なにを言ってるんですか」
「僕に起きる子どもっぽい現象を言ってる。…だから、一緒に帰ろう?」
そっと小首を傾げて、ちょっぴり甘えるような瞳の色。
甘え上手なこの目はほんとに卑怯だ。
「そういうの、ほんっっとに、困るんですけど」
渋面を顔に刻んで抵抗の意思を示してみたが、
城崎さんは控えめになるどころか、掴んだ手首をグッと引っ張って自分の胸元に私を引き寄せた。
→
ようやく見つけた目当ての本は書棚の一番高い位置にあり、あとほんの数センチの手が届かない距離がもどかしくて、むくれたように上を凝視する。
「これは踏み台がいるな…」
「どれが欲しいの?」
「…!?」
「これ?」
「——!」
今では聞き慣れつつある声色に咄嗟に振り返れば、さっき別れたばかりの人物が緩く微笑んで書棚に手を伸ばそうとしていた。
「き、城崎さん…、ここで何やってるんですかっ」
「うん?」
「仕事、どうしたんですか?」
「もういいよ、ある程度片付いたから」
「そんな………、適当ですね」
「そうでもないよ? 何週間もかけての調査だったし」
「…それはそれは。お疲れ様ですね」
「どうも。…それより、欲しい本はどれ?」
「いいです、もう」
「え、どうして?」
「……別に」
「やっぱり、なんだか機嫌が悪いね」
「気のせいです。それじゃ」
なんだか居心地が悪くて立ち去ろうとした私を、城崎さんの質問が追いかけてくる。
「えっ、本は買わないの?」
「だから、もういいんです。また今度にしますから」
「そう…、じゃあ、一緒に帰ろう?」
「いえ、一人で帰ります」
どうしても冷たくあしらってしまいながら、その場を離れようと一歩踏み出したのに、いきなり伸びてきた長い腕と広い手が私の手首を絡め取った。
「ちょっ…、なにするんですか…っ」
「一緒に帰ってくれなきゃ、拗ねるよ?」
「す、拗ねる?」
「そう。僕が拗ねる」
「…ったく、なにを言ってるんですか」
「僕に起きる子どもっぽい現象を言ってる。…だから、一緒に帰ろう?」
そっと小首を傾げて、ちょっぴり甘えるような瞳の色。
甘え上手なこの目はほんとに卑怯だ。
「そういうの、ほんっっとに、困るんですけど」
渋面を顔に刻んで抵抗の意思を示してみたが、
城崎さんは控えめになるどころか、掴んだ手首をグッと引っ張って自分の胸元に私を引き寄せた。
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