Step by Step ・5

文字数 940文字

「ば…、ばかっ、近いですっ」
「うん…、近いね」

必然的に密着してしまう体勢は、心拍数を一気に跳ね上げる。

「っ、…」

激しく打つ鼓動を絶対に知られたくない。
気が動転しそうになるも、必死に平静を保ちながら城崎さんをじっと見定めた。

「……セクハラで訴えて欲しい?」
「いいよ、好きにしてくれて」
「…ほんとに訴えますよ?」
「うん、どうぞ」

堂々とした返事が頭上に落ちて、脅しは全く効果がないことを悟る。

…ダメか…。

「分かりました、一緒に帰るから…、ちょっと離れてくれます…?」
「嫌」
「え!?」
「お断りします」

丁寧な低音がしっとりと耳奥に落ちて。
躊躇いもなく吐き出された要求にたじろぐのは当たり前で、素っ頓狂に目を見開いた。

「そんな勝手なわがまま、言わないでくださいっ…」

一応ここは静かな書店。
図書館とまではいかないが、書籍がずらりと並び、訪れる人々も静かに品定めをしている場所だから、
大声になってしまいそうになるのを一際抑えつつ、ピシャリと言い放った……が。

全くと言っていいほど効果はなく。

「イーヤ」

そうかぶりを振りながら、城崎さんはさらに私を抱き込もうと空いたもう片方の手を背中に回してきた。

「こ、こらっ、なにするのっ…!」
「可愛いから、抱きしめようと思って」
「な、なんでそうなるっ…!」
「だから、可愛いからでしょ」
「ちょっと…! 誰もいないからって、調子に乗りすぎですっ、」
「たとえ誰かいたとしても、関係ないけど」
「何を言ってるんですかっ」

(こんなことされたら、ますます心臓が()たない…!)

慌てて拒みつつ、さらに声を荒げようとしたそのとき、

<きゃあっ、…!!>

突如、店内のどこかで女性の甲高い悲鳴が轟いた。

「———!?」
「…!?」

咄嗟にその場で周回するように辺りを見渡す。

城崎さんも先ほどの態度とは打って変わって神経を研ぎ澄ましたように、私より高い位置の視界から周囲に視線を巡らせていた。

強盗やひったくりなどの事件が発生したのかと思ったが、悲鳴が啼泣に変わったことでそうではない別の胸騒ぎを覚える。

<…———ちゃんっ、りさちゃんっ!!>

必死に名前を呼ぶ声。

ここからでは姿が見えないが、聞こえてくる声は悲愴感をますばかりで、
私と城崎さんは顔を見合わせた後、声のする場所を探りながら駆け出した。



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登場人物紹介

藤沢柚月(フジサワ ユヅキ)23歳

主人公

特異な経歴ゆえに若くして医師


H162cm

城崎咲也(キザキ サクヤ)26歳

私立探偵事務所の所長


H179cm

真鍋颯太(マナベ ソウタ)23歳
柚月の幼馴染


H170cm

石羽 響也(イシバ キョウヤ)27歳

柚月の友人


H175cm


久動 琉成(クドウ リュウセイ)28歳

柚月が勤める大学病院の先輩医師


H176cm

倉橋 舞雪(クラハシ マユキ)23歳

柚月の親友


H156cm

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