意地っ張りな夜 ・4

文字数 824文字

「僕ね、ほんとはすごく寂しがり屋なんだよね」
「……」
「だから、柚月ちゃんのこういった優しさって、すごく好き」
「———」
「……」
「そ…そろそろ、寝ます」

今ここで、いつものように反論する気にはなぜかなれなくて。

視線を逸らしたまま静かに告げて、椅子から腰を上げた。

「うん、そうだね。今日はありがとう」
「いえ…。あ、そうだ、食器とか、そのままにしておいてくれていいですから。明日の朝、私が片付けるので」
「……ありがと」
「食べ終わったら、なるべく早く休んでくださいね。父から少しだけ聞いてます…、城崎さんはもともと体が弱いところがあるって」
「……」
「遅くまでの仕事で疲れも溜まってるだろうし、睡眠不足ってよくないですから」
「……」
「………何か質問でも?」

黙ったままじっと見つめてくる視線にたじろいで、ほんの少し訝し気に問いかけてみる。

「…ちょっと、思っただけ」
「…なにをです?」
「知りたい?」
「…、結構です。どうせすぐには教えてくれないと思うので」
「これは今すぐに教えてあげてもいいよ」
「……じゃあ、なんですか? 一応聞きますよ」

尊大さを漂わせてしまいながら、続く城崎さんの言葉を待った。

「いつか…、」
「…はい、」
「いつか、こんなに優しい柚月ちゃんのこと…、」
「……、」
「絶対に独り占めしようと思った」
「…っ、」
「赤くなってる、可愛いなあ」
「かっ…、可愛くないですっ、それじゃ、寝ますっ!」
「うん、おやすみ、柚月ちゃん」
「お、おやすみなさい…、」

心臓がうるさい。
赤らみを増してゆく自分の頬にも苛立ってくる。

城崎さんは、ただなんとなくで言っただけかもしれないのに…、

うん、きっとそうに違いない。

「…、」

つまりは、耐性がない自分がとても情けない。


いろんな思考が頭の中を右往左往する中で。

(もうっ…、バカじゃないのっ…)

誰に向けた、何についての悪態なのか、自分でもはっきりしないまま。

私は足早に、リビングを後にしたのだった。



volume.4 意地っ張りな夜 END
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登場人物紹介

藤沢柚月(フジサワ ユヅキ)23歳

主人公

特異な経歴ゆえに若くして医師


H162cm

城崎咲也(キザキ サクヤ)26歳

私立探偵事務所の所長


H179cm

真鍋颯太(マナベ ソウタ)23歳
柚月の幼馴染


H170cm

石羽 響也(イシバ キョウヤ)27歳

柚月の友人


H175cm


久動 琉成(クドウ リュウセイ)28歳

柚月が勤める大学病院の先輩医師


H176cm

倉橋 舞雪(クラハシ マユキ)23歳

柚月の親友


H156cm

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