意地っ張りな夜 ・3
文字数 1,023文字
「おいしいね。柚月ちゃんが作ったの?」
「…母と一緒に」
「そうなんだね。…ほんとにおいしい、体も温まるよ」
「それはよかったです」
満足げに箸を進める城崎さんの向かいの席で、静かにホットコーヒーを飲む。
「やっぱりいいな」
「…なにがです?」
「一人でご飯を食べるのも当たり前だったから、嬉しいなって」
「……」
「眠くない?」
「…大丈夫です」
そう、眠くはない。
『嬉しい』の連発には少し戸惑うし、なんだかちょっと緊張するけど。
「柚月ちゃん、ほんとに優しいよね」
「またそんなこと言ってる…、私はイジワルです」
「あははっ、相変わらずの切り込みだね」
「……」
<声を立てて笑いすぎっ>
そうツッコミそうになるも、眉根をピクリとさせただけに留まる。
よく考えたら別にどうでもいいことだし、ここは静観を決め込んだ。
「じゃあ、聞いてもいい?」
「…なんですか?」
「すぐにでも部屋に戻ればいいのに、どうしてここでコーヒーを飲んでるの?」
「それは別に……、コーヒーが飲みたくなったから」
「うん」
「もともとコーヒーが好きだし」
「うん、知ってる」
「寒い冬のホットコーヒーは格別だし」
「うん、分かる。……それから?」
「『それから』…?」
「うん。他には?」
「……、あとは…、縫合の練習でも…ちょっとだけ疲れたし…?」
ここまで掘り下げて聞いてくるとは思わなくて、誰もが言いそうなありがちな理由を思いついて並べてみたが、
「ううん、違う」
「えっ?」
城崎さんは、まるで一刀両断するように否定して首を振った。
「キミが、患者さんに関することで疲れたなんて思うわけがない」
「…!」
「どれだけ徹夜が続いても文句ひとつ言わずに頑張れるのは、患者さん第一の想いがあるからでしょ?」
「…、」
「縫合の練習だって、何よりも患者さんのことを思ってやってるのに」
「———」
ちょっとだけ、絶句。
私の医師として抱く情熱を、この人がここまで知り得ていることに驚いてしまう。
「…付き合ってくれてるんでしょ、僕に。練習の傍ら、待っててくれたんだよね?」
「…、」
「遅くに帰ってきた僕が、寂しく思わないように」
「…——」
『うん…』と、従順に頷くことはできなかったが、<見透かされている>といういつもの不快な解釈とは違って、不覚にも見抜かれたことに感心してしまった。
(…ほんとにヤバいくらい鋭いんですけど…)
けれど、そのことに勘付かれたくなくて真意を隠そうとすればするほどぎこちなく浮遊する視線を晒してしまい、内心であたふたしてしまった。
→
「…母と一緒に」
「そうなんだね。…ほんとにおいしい、体も温まるよ」
「それはよかったです」
満足げに箸を進める城崎さんの向かいの席で、静かにホットコーヒーを飲む。
「やっぱりいいな」
「…なにがです?」
「一人でご飯を食べるのも当たり前だったから、嬉しいなって」
「……」
「眠くない?」
「…大丈夫です」
そう、眠くはない。
『嬉しい』の連発には少し戸惑うし、なんだかちょっと緊張するけど。
「柚月ちゃん、ほんとに優しいよね」
「またそんなこと言ってる…、私はイジワルです」
「あははっ、相変わらずの切り込みだね」
「……」
<声を立てて笑いすぎっ>
そうツッコミそうになるも、眉根をピクリとさせただけに留まる。
よく考えたら別にどうでもいいことだし、ここは静観を決め込んだ。
「じゃあ、聞いてもいい?」
「…なんですか?」
「すぐにでも部屋に戻ればいいのに、どうしてここでコーヒーを飲んでるの?」
「それは別に……、コーヒーが飲みたくなったから」
「うん」
「もともとコーヒーが好きだし」
「うん、知ってる」
「寒い冬のホットコーヒーは格別だし」
「うん、分かる。……それから?」
「『それから』…?」
「うん。他には?」
「……、あとは…、縫合の練習でも…ちょっとだけ疲れたし…?」
ここまで掘り下げて聞いてくるとは思わなくて、誰もが言いそうなありがちな理由を思いついて並べてみたが、
「ううん、違う」
「えっ?」
城崎さんは、まるで一刀両断するように否定して首を振った。
「キミが、患者さんに関することで疲れたなんて思うわけがない」
「…!」
「どれだけ徹夜が続いても文句ひとつ言わずに頑張れるのは、患者さん第一の想いがあるからでしょ?」
「…、」
「縫合の練習だって、何よりも患者さんのことを思ってやってるのに」
「———」
ちょっとだけ、絶句。
私の医師として抱く情熱を、この人がここまで知り得ていることに驚いてしまう。
「…付き合ってくれてるんでしょ、僕に。練習の傍ら、待っててくれたんだよね?」
「…、」
「遅くに帰ってきた僕が、寂しく思わないように」
「…——」
『うん…』と、従順に頷くことはできなかったが、<見透かされている>といういつもの不快な解釈とは違って、不覚にも見抜かれたことに感心してしまった。
(…ほんとにヤバいくらい鋭いんですけど…)
けれど、そのことに勘付かれたくなくて真意を隠そうとすればするほどぎこちなく浮遊する視線を晒してしまい、内心であたふたしてしまった。
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