Step by Step ・2

文字数 1,023文字

たまには、医学書以外に文庫本でも読もうと閃くのは、<こたつにみかん>が()になるこの季節だからなのか。

私はどうやら冬になると、自室に引きこもって読書に没頭したくなる傾向があるようだ。

「そういえば、秋から冬にかけてしか、あの本屋さんには行かないな…」

口元まで巻いたニットマフラーの内側でボソボソとひとりごち、目的の書店が向こう側に現れたところで、何気なく手前のカフェの入り口に視線を巡らせた。

「……、っ…」

思わず二度見して、そして目を見張る。

カフェの店内から、綺麗な女性と寄り添うようにして現れた人物にひどく驚いて、すぐさまくるりと背を向けた。

(…見てはいけないものを見てしまった感じだ…)

胸が異常にドキドキしている。
その鼓動は、ただびっくりしたときとはまた違う、自分でも不可解な振動で。

「………帰ろう」

なんとなく落ち着かなくて、本屋に行く気までも失せて。
気付かれないように最大限に注意を払いつつ、そそくさと来た道を戻り始めた。

……が。

「柚月ちゃん」
「…っ、!」
「無視して行くなんてひどいなあ」
「……、」

私の細心の注意ですら、この人には歯が立たないのか…?

密かに驚愕しながら。

いつもより声のトーンが高めに届いた城崎さんの呼声に、ビクッと反射的に肩を竦めて足を止める…、
というか、意図的に止まってしまった。

「こんにちは、柚月ちゃん」

背後から穏やかな挨拶とともに近づいた城崎さんは、静かに私の目の前に立つ。

凛としたジャケット姿のその腕に、タックカットソーの可憐な細い腕を絡めた隣の女性は、柔らかに微笑んでこちらに会釈した。

男女が白昼堂々腕を組んで歩くとか、恋人っぽい。

(『ぽい』じゃなくて、恋人かな…)

さりげなく観察しながら、女性に向けてひとまずよそ行きの笑顔で愛想良く頭を下げた。

「買い物?」
「…本屋へ、ちょっと」
「そうなんだ」
「……、城崎さんは、デートですか?」

聞かなくてもいいことをつい口に出してしまう。

私の質問に意表を突かれたのか、城崎さんは目を瞬かせて、ぽかんとしながら首を振った。

「ううん、違うけど…」
「へえ、そうなんですね。デートにしか見えないですけど」

こら、黙るんだ、私っ…。

内心で軽く叱っても、意思に反してどうしても意地悪くなってしまう口調を止めることができない。

(…、)

小さく溜め息を漏らして、取り繕うように車道へと視線を飛ばす。

(…らしくない。とりあえず、ここは退散だ)

号令のようなコマンドを自分に課して、城崎さんに視線を戻した。



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登場人物紹介

藤沢柚月(フジサワ ユヅキ)23歳

主人公

特異な経歴ゆえに若くして医師


H162cm

城崎咲也(キザキ サクヤ)26歳

私立探偵事務所の所長


H179cm

真鍋颯太(マナベ ソウタ)23歳
柚月の幼馴染


H170cm

石羽 響也(イシバ キョウヤ)27歳

柚月の友人


H175cm


久動 琉成(クドウ リュウセイ)28歳

柚月が勤める大学病院の先輩医師


H176cm

倉橋 舞雪(クラハシ マユキ)23歳

柚月の親友


H156cm

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