苛立ちのメカニズム ・7
文字数 939文字
走り慣れた車道も、季節が移り変わるこの時期は、どこか真新しく感じるから不思議だ。
「……」
「……」
夜の街灯を潜り抜けるようにして私の車を走らせる颯太は、黙ってハンドルを握っている。
颯太らしい、無言でいることの気遣い。
そのことを当たり前のように思っているわけではないけど、何も言わない自分は、やっぱり大人げなくて。
「…なんかごめんね、颯太。ちょっとイライラしたところ見せて…ごめん」
ようやく紡ぎ出せた言葉は、ちょっぴり掠れていた。
「いや、いいってそんなのは。…それより、なんつーか…、大丈夫か?」
「うん…ごめん、平気だよ」
「やっぱあれだよな…、突然知らねー男と一緒に暮らすことになっちまったんだ、気も遣うし、なんか凹むよな」
「…うん」
「そんなのもあって、ついイライラするっていうのもアリだと思うし」
「……」
「ただ、まあ…、庇うわけじゃねーけど、咲也くんってさ、誤解されやすいところもあるけど、そんな悪いヤツじゃねーから」
「それは……なんとなく分かる」
「だろ? 昔から、後輩の俺にも上下関係ナシで、先輩風吹かさないしさ」
「…分かるんだけど…、」
そもそもああいった人、私の周りにはいないタイプだから。
できれば避けて通りたいのに、そうもいかない現実がちょっとだけキツイ。
「色々と見透かされてる感じっていうのかな、なんかそれが、気に障るというか…」
「見透かされてる、かあ……。咲也くんは探偵の仕事してるから、そのせいもあるのかもしれねーな」
「……、確かにそれはあるかも…」
「そんなに気にすんなって。俺もちょくちょく遊びに来てやるからさ。…つーか、遊んでくれよ?」
「…ふふ、分かった。……ありがとう」
幼馴染のさりげない優しさが改めて身に染みて、元気を出そうと気持ちを切り替える。
…でも。
「……」
城崎さんのように、こんな感じでイライラさせられた人に今まで出会ったことはなかった。
(……、やっぱり仲良くなんて…、)
「きっと無理だよ…」
たとえ父の頼み事だとしても、懇意な関係を築くなど、今は想像もできない。
「ん? なんか言ったか」
「ううんっ、なんでもないよ」
普段と変わらない笑顔で誤魔化した後、フロントガラスの先を見据えながら、また一つ、溜め息を零した。
volume.2 苛立ちのメカニズム END
「……」
「……」
夜の街灯を潜り抜けるようにして私の車を走らせる颯太は、黙ってハンドルを握っている。
颯太らしい、無言でいることの気遣い。
そのことを当たり前のように思っているわけではないけど、何も言わない自分は、やっぱり大人げなくて。
「…なんかごめんね、颯太。ちょっとイライラしたところ見せて…ごめん」
ようやく紡ぎ出せた言葉は、ちょっぴり掠れていた。
「いや、いいってそんなのは。…それより、なんつーか…、大丈夫か?」
「うん…ごめん、平気だよ」
「やっぱあれだよな…、突然知らねー男と一緒に暮らすことになっちまったんだ、気も遣うし、なんか凹むよな」
「…うん」
「そんなのもあって、ついイライラするっていうのもアリだと思うし」
「……」
「ただ、まあ…、庇うわけじゃねーけど、咲也くんってさ、誤解されやすいところもあるけど、そんな悪いヤツじゃねーから」
「それは……なんとなく分かる」
「だろ? 昔から、後輩の俺にも上下関係ナシで、先輩風吹かさないしさ」
「…分かるんだけど…、」
そもそもああいった人、私の周りにはいないタイプだから。
できれば避けて通りたいのに、そうもいかない現実がちょっとだけキツイ。
「色々と見透かされてる感じっていうのかな、なんかそれが、気に障るというか…」
「見透かされてる、かあ……。咲也くんは探偵の仕事してるから、そのせいもあるのかもしれねーな」
「……、確かにそれはあるかも…」
「そんなに気にすんなって。俺もちょくちょく遊びに来てやるからさ。…つーか、遊んでくれよ?」
「…ふふ、分かった。……ありがとう」
幼馴染のさりげない優しさが改めて身に染みて、元気を出そうと気持ちを切り替える。
…でも。
「……」
城崎さんのように、こんな感じでイライラさせられた人に今まで出会ったことはなかった。
(……、やっぱり仲良くなんて…、)
「きっと無理だよ…」
たとえ父の頼み事だとしても、懇意な関係を築くなど、今は想像もできない。
「ん? なんか言ったか」
「ううんっ、なんでもないよ」
普段と変わらない笑顔で誤魔化した後、フロントガラスの先を見据えながら、また一つ、溜め息を零した。
volume.2 苛立ちのメカニズム END