赤い糸 ・6
文字数 1,746文字
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ゆなちゃんや他の園児たちの努力を讃えるかのように、あいにくの雨空だった昨日とは見違えるような快晴。
発表会の今日は夜中に雨も止んで、明け方には上った朝日が雲間から明るく光を放っていた。
夕べ、ゆなちゃんのお母さんからのL〇NEで、悪天候になるかもしれない日に私たちが出向くことを申し訳なげに気遣ってくれていたのだが、
それも杞憂に終わって良かったと、自然に柔らかな笑みが零れる。
「さてと…、忘れ物はないかな…」
室内をキョロキョロと見渡しながら、
手に抱えたラグビーボールほどの包みは、ゆなちゃんへのプレゼントで。
幼い子が好みそうな幾種類ものお菓子をチョイスしそれらを小分けにしたものを、大判のカラフルなワックスペーパーとセロファンでキャンディのように包 んでラッピングしてある。
お菓子選びから始まり、どのようなラッピングをするかに至るまで、城崎さんと相談しながら進めたが、
完成した贈り物は宝石箱みたいにキラキラしていて、なかなか良くできたと思う。
(ゆなちゃん、喜んでくれるといいな)
朝から忙 しなく支度を終えた私は、浮足立つような気持ちを抑えながらも意気揚々とリビングに入る。
朝からご機嫌なのは、ゆなちゃんや他の園児たちに会えること。
幼い頃は、保育士に憧れていた時期があったほど、子どもが好きだったりするから。
「城崎さん、そろそろ行きますか」
「…え、もう?」
リビングのソファーにゆったりと腰かけた城崎さんは、どこかからかいを含めたように口端を上げてこちらを見遣る。
「柚月ちゃん、今日はとても機嫌がいいね」
「…別に、いつもと同じですけど?」
「嬉しいんでしょ。たくさんの可愛い子どもたちに会えるのが」
「べ…別に……、いや、やっぱりバレてます?」
「バレバレです」
「ふふ…」
つい緩んでしまう頬を取り繕いながら、プレゼントの包みを一旦テーブルに置いてダウンコートを羽織る。
「プレゼント、喜んでくれるといいね」
「好んで食べてくれそうなお菓子を色々と厳選しましたからね…、喜んでくれることを願います」
キャンディ型のそれを再び大事に抱え直した私を、目を細めて微笑みながら眺めていた城崎さんだったが、
「…ね、どうしてデニムのパンツスタイルなの? もちろんそれも似合ってるけど…同窓会のときみたいに、フェミニンなコーデで行かないの?」
少しだけ、笑みを曇らせて訊ねた。
分かってないな…という風にゆっくりとかぶりを振った私は、彼が思い描くコーデを打ち消すように手のひらをヒラヒラさせる。
「一応、ゆなちゃんのお母さんに確認したら、『ドレスコードもなにもないので、気楽な格好で来てください』って言ってましたし、これでいいんです。そもそも、あんなフワフワした格好で行けませんよ」
「どうして?」
「もしかしたら、子どもたちと一緒に遊ぶ機会があるかもしれないじゃないですか」
「……、『遊ぶ』?」
「そうです。かけっこしたり砂場で遊んだり…とか?」
話の途中から嬉々として目を輝かせた私に、城崎さんは暫しあんぐりとした後、愉快そうに笑いだした。
「…っ、あはは! 発表会に行くんだよ? それはないと思うけどなあ」
こんな些細なことで肩を揺らして笑う城崎さんは、きっとすごく笑い上戸に違いない。
「……人の楽しみを嗤う奴は、馬にけられてなんとやら、ですよ」
「あはは、っ、え、なに?」
「……」
(別にいいよ、笑われても。笑う門には福来るって言うし…)
…なんて、寛容に思い込もうとしたが、
むくむくと不愉快が膨らんでしまい、眉根に縦皺を寄せた。
「いいんですっ、同窓会のときみたいに、洒落たお店にご飯を食べに行くわけじゃないんですから。行き先は、たくさんの子どもたちが過ごす幼稚園なんですよ? 動きやすいスタイルがいいに決まってますっ」
「ほんとっ…、発想が可愛いよね…っ、」
「だから。いつも言いますけど、可愛くはないんです!」
「…ッ、」
「……ていうか、笑いすぎなんですけど?」
未だ笑いを抑えきれない城崎さんをじっと睨んでから、ふいっと視線を外してバッグを肩に掛ける。
「もうっ、行かないなら置いていきますよっ」
「っ…、あ、待ってよ!」
途端に笑いを噛み殺した城崎さんをわざとらしく放置して、
プレゼントの包み具合を気にしながら、スタスタと玄関までの廊下を進んだ。
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ゆなちゃんや他の園児たちの努力を讃えるかのように、あいにくの雨空だった昨日とは見違えるような快晴。
発表会の今日は夜中に雨も止んで、明け方には上った朝日が雲間から明るく光を放っていた。
夕べ、ゆなちゃんのお母さんからのL〇NEで、悪天候になるかもしれない日に私たちが出向くことを申し訳なげに気遣ってくれていたのだが、
それも杞憂に終わって良かったと、自然に柔らかな笑みが零れる。
「さてと…、忘れ物はないかな…」
室内をキョロキョロと見渡しながら、
手に抱えたラグビーボールほどの包みは、ゆなちゃんへのプレゼントで。
幼い子が好みそうな幾種類ものお菓子をチョイスしそれらを小分けにしたものを、大判のカラフルなワックスペーパーとセロファンでキャンディのように
お菓子選びから始まり、どのようなラッピングをするかに至るまで、城崎さんと相談しながら進めたが、
完成した贈り物は宝石箱みたいにキラキラしていて、なかなか良くできたと思う。
(ゆなちゃん、喜んでくれるといいな)
朝から
朝からご機嫌なのは、ゆなちゃんや他の園児たちに会えること。
幼い頃は、保育士に憧れていた時期があったほど、子どもが好きだったりするから。
「城崎さん、そろそろ行きますか」
「…え、もう?」
リビングのソファーにゆったりと腰かけた城崎さんは、どこかからかいを含めたように口端を上げてこちらを見遣る。
「柚月ちゃん、今日はとても機嫌がいいね」
「…別に、いつもと同じですけど?」
「嬉しいんでしょ。たくさんの可愛い子どもたちに会えるのが」
「べ…別に……、いや、やっぱりバレてます?」
「バレバレです」
「ふふ…」
つい緩んでしまう頬を取り繕いながら、プレゼントの包みを一旦テーブルに置いてダウンコートを羽織る。
「プレゼント、喜んでくれるといいね」
「好んで食べてくれそうなお菓子を色々と厳選しましたからね…、喜んでくれることを願います」
キャンディ型のそれを再び大事に抱え直した私を、目を細めて微笑みながら眺めていた城崎さんだったが、
「…ね、どうしてデニムのパンツスタイルなの? もちろんそれも似合ってるけど…同窓会のときみたいに、フェミニンなコーデで行かないの?」
少しだけ、笑みを曇らせて訊ねた。
分かってないな…という風にゆっくりとかぶりを振った私は、彼が思い描くコーデを打ち消すように手のひらをヒラヒラさせる。
「一応、ゆなちゃんのお母さんに確認したら、『ドレスコードもなにもないので、気楽な格好で来てください』って言ってましたし、これでいいんです。そもそも、あんなフワフワした格好で行けませんよ」
「どうして?」
「もしかしたら、子どもたちと一緒に遊ぶ機会があるかもしれないじゃないですか」
「……、『遊ぶ』?」
「そうです。かけっこしたり砂場で遊んだり…とか?」
話の途中から嬉々として目を輝かせた私に、城崎さんは暫しあんぐりとした後、愉快そうに笑いだした。
「…っ、あはは! 発表会に行くんだよ? それはないと思うけどなあ」
こんな些細なことで肩を揺らして笑う城崎さんは、きっとすごく笑い上戸に違いない。
「……人の楽しみを嗤う奴は、馬にけられてなんとやら、ですよ」
「あはは、っ、え、なに?」
「……」
(別にいいよ、笑われても。笑う門には福来るって言うし…)
…なんて、寛容に思い込もうとしたが、
むくむくと不愉快が膨らんでしまい、眉根に縦皺を寄せた。
「いいんですっ、同窓会のときみたいに、洒落たお店にご飯を食べに行くわけじゃないんですから。行き先は、たくさんの子どもたちが過ごす幼稚園なんですよ? 動きやすいスタイルがいいに決まってますっ」
「ほんとっ…、発想が可愛いよね…っ、」
「だから。いつも言いますけど、可愛くはないんです!」
「…ッ、」
「……ていうか、笑いすぎなんですけど?」
未だ笑いを抑えきれない城崎さんをじっと睨んでから、ふいっと視線を外してバッグを肩に掛ける。
「もうっ、行かないなら置いていきますよっ」
「っ…、あ、待ってよ!」
途端に笑いを噛み殺した城崎さんをわざとらしく放置して、
プレゼントの包み具合を気にしながら、スタスタと玄関までの廊下を進んだ。
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