ありきたりなエール ・4
文字数 1,348文字
「冷蔵庫の余り物で作るから、どんなものでも文句は言いっこなしでよろしく」
「仕方ない。柚月の手料理だ、どんなものだとしても付き合ってやる」
「上から目線でよく言うよね…。内心では、柚月ちゃんの手料理を食べられて、飛び上がるほど嬉しいくせに」
「黙れ」
「ああもうっ、うるさいなあ、いちいち揉めるな、二人ともっ!」
リビングのソファーに一旦腰かけた二人の会話を、火を噴くような声調で分断する。
(なんだか、子どもが二人いる母親みたいな心境だ…)
なんて思いつつ、
冷蔵庫の中を物色しながら食材を見繕っていると、背後から城崎さんが歩み寄ってきた。
「ね、なにか手伝おうか?」
「大丈夫ですよ、座っててください」
「……、」
返事をしない城崎さんに振り向くと、少し落ち着かない様子で、その姿を目にして思わず口元が綻んだ。
「ふふ、響也と二人だと気を遣いますか?」
「んー…、気を遣うってわけじゃないんだけど、石羽くんと二人でいるとつい言い合いになっちゃうから。柚月ちゃん、こっちを気にしながらの料理になると大変かなと思って…」
「……」
なるほど、そういうことか…。
「城崎さんって、ほんとによく気が利きますよね」
「そう? 別に普通だと思うけど」
普通よりは逸脱してるんじゃないかと思いながらも、少しだけ破顔して、調理台の玉ねぎを差し出した。
「じゃあ…、手伝ってもらえます?」
「うん!」
野菜を洗ったり、卵を割ってかき混ぜたり、お皿を取り出してもらったり。
簡単な調理補助の指示をして、普段あまり料理をしないわりには、なかなかの手際の良さでお昼ご飯を仕上げていく。
「———よしっ、できた!」
しばらくして、ふんわりとおいしそうに出来上がった三人分のオフライスに、我ながらいい出来だと目を細める。
バターライスを包んでいる薄焼き卵もどれも形よく、破れていない。
「これは今まで作った中で、一番の出来だなー」
ちょっぴり浮かれてしまいながら出来栄えに満足していると、隣で同じようにオムライスに視線を投じていた城崎さんが、少し甘えるように私の腕を肘で小突いてきた。
「…ねえ、柚月ちゃん。僕のオムライスに、ケチャップでハートマーク描いてくれない?」
「どくろマークなら上手に描けますけど?」
意地悪く口角を上げて言うと、城崎さんは拗ねたように唇を尖らせてから、諦めたように笑った。
︙
「さて、いよいよ実食タイムですよ」
オムライスをトレイに乗せてテーブルに運ぼうとした矢先、響也が静かにキッチンに現れて。
熟思するように表情を引き締めたその顔色を見て、なにかあったのだろうと一瞬で悟る。
「響也? どうしたの?」
「時間が無くなった」
「えっ、…もう?」
「たった今、秘書から連絡があった。当初予定していたよりも、先方との打ち合わせの時間が繰り上がったらしい」
事情を説明しただけで、それ以上口を閉ざした響也は、背を向けて立ち去ろうとする。
「…あ! ちょっと待って!」
「……」
私の引き留める声にも振り返ることなく、響也はそのまま無言で玄関まで歩みを進めた。
「柚月ちゃん、コレ…、」
さすがの城崎さんも、響也がオムライスを口にすることなく帰ることになってしまったことを、気の毒に思ったのだろう。
「……、」
響也の分のオムライスのお皿を丁寧に手に持ち、困惑したように顔を曇らせていた。
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「仕方ない。柚月の手料理だ、どんなものだとしても付き合ってやる」
「上から目線でよく言うよね…。内心では、柚月ちゃんの手料理を食べられて、飛び上がるほど嬉しいくせに」
「黙れ」
「ああもうっ、うるさいなあ、いちいち揉めるな、二人ともっ!」
リビングのソファーに一旦腰かけた二人の会話を、火を噴くような声調で分断する。
(なんだか、子どもが二人いる母親みたいな心境だ…)
なんて思いつつ、
冷蔵庫の中を物色しながら食材を見繕っていると、背後から城崎さんが歩み寄ってきた。
「ね、なにか手伝おうか?」
「大丈夫ですよ、座っててください」
「……、」
返事をしない城崎さんに振り向くと、少し落ち着かない様子で、その姿を目にして思わず口元が綻んだ。
「ふふ、響也と二人だと気を遣いますか?」
「んー…、気を遣うってわけじゃないんだけど、石羽くんと二人でいるとつい言い合いになっちゃうから。柚月ちゃん、こっちを気にしながらの料理になると大変かなと思って…」
「……」
なるほど、そういうことか…。
「城崎さんって、ほんとによく気が利きますよね」
「そう? 別に普通だと思うけど」
普通よりは逸脱してるんじゃないかと思いながらも、少しだけ破顔して、調理台の玉ねぎを差し出した。
「じゃあ…、手伝ってもらえます?」
「うん!」
野菜を洗ったり、卵を割ってかき混ぜたり、お皿を取り出してもらったり。
簡単な調理補助の指示をして、普段あまり料理をしないわりには、なかなかの手際の良さでお昼ご飯を仕上げていく。
「———よしっ、できた!」
しばらくして、ふんわりとおいしそうに出来上がった三人分のオフライスに、我ながらいい出来だと目を細める。
バターライスを包んでいる薄焼き卵もどれも形よく、破れていない。
「これは今まで作った中で、一番の出来だなー」
ちょっぴり浮かれてしまいながら出来栄えに満足していると、隣で同じようにオムライスに視線を投じていた城崎さんが、少し甘えるように私の腕を肘で小突いてきた。
「…ねえ、柚月ちゃん。僕のオムライスに、ケチャップでハートマーク描いてくれない?」
「どくろマークなら上手に描けますけど?」
意地悪く口角を上げて言うと、城崎さんは拗ねたように唇を尖らせてから、諦めたように笑った。
︙
「さて、いよいよ実食タイムですよ」
オムライスをトレイに乗せてテーブルに運ぼうとした矢先、響也が静かにキッチンに現れて。
熟思するように表情を引き締めたその顔色を見て、なにかあったのだろうと一瞬で悟る。
「響也? どうしたの?」
「時間が無くなった」
「えっ、…もう?」
「たった今、秘書から連絡があった。当初予定していたよりも、先方との打ち合わせの時間が繰り上がったらしい」
事情を説明しただけで、それ以上口を閉ざした響也は、背を向けて立ち去ろうとする。
「…あ! ちょっと待って!」
「……」
私の引き留める声にも振り返ることなく、響也はそのまま無言で玄関まで歩みを進めた。
「柚月ちゃん、コレ…、」
さすがの城崎さんも、響也がオムライスを口にすることなく帰ることになってしまったことを、気の毒に思ったのだろう。
「……、」
響也の分のオムライスのお皿を丁寧に手に持ち、困惑したように顔を曇らせていた。
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