ピリオド. ・5

文字数 711文字

「大丈夫ですか!?」

咄嗟に手を伸ばして、傾く体を抱き留める。

(…っ、やっぱり結構な高熱、)

熱で火照る肢体を支えて城崎さんを仰ぎ見ると、額に落ちた前髪から覗く瞳が遠慮がちに揺れていた。

「ごめん、意外とこんなときって思うように動かないものだね…、車まで支えてもらってもいい?」
「もちろんです、肩に手を回してください」
「…ありがと。柚月ちゃんは、僕の病気を何でも治す特効薬みたい…」
「…、」
「…ねえ、家に帰って僕がベッドに入ったら、ずっと手を繋いでてくれない?」
「…手を?」
「うん。僕が眠るまでずっと。…僕、子どもの頃からよく熱を出してね…、そのときに、兄がいつも手を繋いでくれたから、安心して眠れたんだ」
「……分かりました、いいですよ」
「今は、あのときの兄を優に超える存在が、キミ」
「———」

城崎さんの深い想いを全身に感じて、内心で狼狽し押し黙る。

すぐさま私の推辞がその動揺を消し去ろうと、幾重にも広がる。

「……、」

でも、もう、ダメだ。


「僕が朝まで眠らなければ、柚月ちゃん大変だね」
「…どうしてですか?」
「だって、眠るまでずっと手を繋いでなきゃいけないから」
「……大変じゃないですよ…、」
「え…?」
「……」
「柚月ちゃん?」
「…だって、病人の要望をしっかりと聞いてあげたいですから」

そっと微笑み返した眼差しに、凛とした医師の風格を宿す。

けれどその裏側では、

<できる限りあなたと手を繋いでいたい>

…という切なる恋心を抱いて。


「足元、気を付けてくださいね?」
「うん」
「……」

ゆっくりと歩調を合わせながら、一つ、胸奥に灯る決意。


———偽りの自分に、ピリオドを打つ。


「……」


もう、好きが止まらない。





volume.13 ピリオド. END
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登場人物紹介

藤沢柚月(フジサワ ユヅキ)23歳

主人公

特異な経歴ゆえに若くして医師


H162cm

城崎咲也(キザキ サクヤ)26歳

私立探偵事務所の所長


H179cm

真鍋颯太(マナベ ソウタ)23歳
柚月の幼馴染


H170cm

石羽 響也(イシバ キョウヤ)27歳

柚月の友人


H175cm


久動 琉成(クドウ リュウセイ)28歳

柚月が勤める大学病院の先輩医師


H176cm

倉橋 舞雪(クラハシ マユキ)23歳

柚月の親友


H156cm

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