My All ・4
文字数 905文字
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城崎さんがうちの居候でなくなる日も残すところあとわずか。
彼がこの家を出た二日後に、私もアメリカに発つ。
離れ離れになってしまう前に、彼にこの想いを伝える。
伝えないと、きっと後悔するから。
「……、」
ひとつ、深呼吸をして。
城崎さんの部屋のドアを軽くノックした。
「はーい」
「すみません、少しお邪魔してもいいですか?」
「柚月ちゃん? もちろん大歓迎、どうぞ?」
「…失礼します、」
遠慮がちにドアノブを引くと、机でノートパソコンに向かう城崎さんが、回転チェアを静かにくるりとさせてこちらを振り向く。
三日月のように細めた瞳は、嬉しそうに私を見つめた。
「珍しいね、柚月ちゃんから僕の部屋に来るなんて。僕がお願いして来てもらったことはあるけど、自分から来るのって初めてじゃない?」
「…そうでしたっけ?」
「そうだよ。事務所にはどんどん遊びに来てね? あ、でも、僕は調査で外にいることの方が多いから、来るときはまず僕に連絡して? せっかく会えるタイミングを無駄にしたくないから」
「…そのときは、そうしますね」
(しばらくは、行きたくても行けなくなるけど…)
渡米の話をいつ切り出すか考えながら、少しばかり曖昧に微笑んで室内を見渡した。
「部屋の中も、スッキリと片付きましたね」
「うん、あとはちょっとした身の回りの物と僕が事務所に行くだけ」
「事務所もずいぶんきれいに片付いてましたもんね」
「一昨日から、昼間はあっちで仕事できるようになったよ。持ち帰った仕事をこの部屋で消化するのも、あと少しの間かな」
「…そうですか」
「あ、そうそう。この椅子と机がすごく使いやすくてね、それを知った藤沢さんが『良かったら持って行きなさい』って言ってくれたから、最初はお言葉に甘えてそうしようかなと思ったんだけど…、この間、ここに落書きを発見しちゃって」
ふふ…と、優し気に笑ったキザキさんは、机の側面を長い指先でポンポンと弾く。
「…落書き?」
「うん。コレがなかったら、ありがたく譲ってもらってたんだけどね」
「…、」
(そんなに目立つ落書きなのかな…?)
「ほら、ココ」
「……」
城崎さんの指先が指し示す落書きとやらを目視すべく、訝りながら机の側に歩み寄った。
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城崎さんがうちの居候でなくなる日も残すところあとわずか。
彼がこの家を出た二日後に、私もアメリカに発つ。
離れ離れになってしまう前に、彼にこの想いを伝える。
伝えないと、きっと後悔するから。
「……、」
ひとつ、深呼吸をして。
城崎さんの部屋のドアを軽くノックした。
「はーい」
「すみません、少しお邪魔してもいいですか?」
「柚月ちゃん? もちろん大歓迎、どうぞ?」
「…失礼します、」
遠慮がちにドアノブを引くと、机でノートパソコンに向かう城崎さんが、回転チェアを静かにくるりとさせてこちらを振り向く。
三日月のように細めた瞳は、嬉しそうに私を見つめた。
「珍しいね、柚月ちゃんから僕の部屋に来るなんて。僕がお願いして来てもらったことはあるけど、自分から来るのって初めてじゃない?」
「…そうでしたっけ?」
「そうだよ。事務所にはどんどん遊びに来てね? あ、でも、僕は調査で外にいることの方が多いから、来るときはまず僕に連絡して? せっかく会えるタイミングを無駄にしたくないから」
「…そのときは、そうしますね」
(しばらくは、行きたくても行けなくなるけど…)
渡米の話をいつ切り出すか考えながら、少しばかり曖昧に微笑んで室内を見渡した。
「部屋の中も、スッキリと片付きましたね」
「うん、あとはちょっとした身の回りの物と僕が事務所に行くだけ」
「事務所もずいぶんきれいに片付いてましたもんね」
「一昨日から、昼間はあっちで仕事できるようになったよ。持ち帰った仕事をこの部屋で消化するのも、あと少しの間かな」
「…そうですか」
「あ、そうそう。この椅子と机がすごく使いやすくてね、それを知った藤沢さんが『良かったら持って行きなさい』って言ってくれたから、最初はお言葉に甘えてそうしようかなと思ったんだけど…、この間、ここに落書きを発見しちゃって」
ふふ…と、優し気に笑ったキザキさんは、机の側面を長い指先でポンポンと弾く。
「…落書き?」
「うん。コレがなかったら、ありがたく譲ってもらってたんだけどね」
「…、」
(そんなに目立つ落書きなのかな…?)
「ほら、ココ」
「……」
城崎さんの指先が指し示す落書きとやらを目視すべく、訝りながら机の側に歩み寄った。
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