Step by Step ・3
文字数 753文字
「では、そういうわけで、失礼します」
「そういうわけって、どういうわけなの?」
「……別に、気にしないでください」
「あ、柚月ちゃん、待って」
ペコリと頭を下げて踵を返そうとした私を、城崎さんの声がその場に縫い留める。
「…なにか?」
「ちなみに、この子は事務所のスタッフさんなんだ。今、恋人のフリして偵察中」
「……、」
「今回の仕事は、単独で入り込むには難しい場所が多くて」
「……」
透明度の高い弁明に再び女性を一瞥すれば、そのことを裏付けるように、品のある振る舞いでありながらも強めの相槌を打っていた。
なのに、その事様を見ても、どういうわけか素直になれない。
「……、別に、どうでもいいですけど」
「柚月ちゃん、なんだかいつもと様子が…、」
「いつもと同じですよ」
「でも、少し機嫌が悪いみたいに見…、」
「目の調子でも悪いんじゃないですか? 急ぐので、失礼しますっ」
城崎さんの推考を遮るように素早く切り返すと、パッと背を向けてスタスタと歩いた。
「いちいち弁解なんて…、もうそういうのいいから、ほんとに」
……でも、なんだか…、
私、ちょっとだけ、ホッとしてない…?
「……、」
ぷかぷかと浮いてくる思料に、横断歩道の赤信号を自然と睨んでしまう。
(弁解なんていらないはずなのに…、弁解してくれて、ちょっと嬉しかったっていうか…)
どうして心の隅っこから小さな満足感がじわじわと広がってくるのか、それがもう、自分の中では謎すぎて。
「……っ、疲れる、考えるの止めよう…」
はあ…っと大きく息を吐き出して肩を上下させてから、心の中を不器用に整理する。
「慣れないことを考えるものじゃないな…」
滑稽な自分に、ふふ…と短く笑うと、
お気に入りのショルダーバッグを肩に掛け直して、青信号になった横断歩道をサクサクと渡り、辿り着いた書店の入り口をくぐった。
→
「そういうわけって、どういうわけなの?」
「……別に、気にしないでください」
「あ、柚月ちゃん、待って」
ペコリと頭を下げて踵を返そうとした私を、城崎さんの声がその場に縫い留める。
「…なにか?」
「ちなみに、この子は事務所のスタッフさんなんだ。今、恋人のフリして偵察中」
「……、」
「今回の仕事は、単独で入り込むには難しい場所が多くて」
「……」
透明度の高い弁明に再び女性を一瞥すれば、そのことを裏付けるように、品のある振る舞いでありながらも強めの相槌を打っていた。
なのに、その事様を見ても、どういうわけか素直になれない。
「……、別に、どうでもいいですけど」
「柚月ちゃん、なんだかいつもと様子が…、」
「いつもと同じですよ」
「でも、少し機嫌が悪いみたいに見…、」
「目の調子でも悪いんじゃないですか? 急ぐので、失礼しますっ」
城崎さんの推考を遮るように素早く切り返すと、パッと背を向けてスタスタと歩いた。
「いちいち弁解なんて…、もうそういうのいいから、ほんとに」
……でも、なんだか…、
私、ちょっとだけ、ホッとしてない…?
「……、」
ぷかぷかと浮いてくる思料に、横断歩道の赤信号を自然と睨んでしまう。
(弁解なんていらないはずなのに…、弁解してくれて、ちょっと嬉しかったっていうか…)
どうして心の隅っこから小さな満足感がじわじわと広がってくるのか、それがもう、自分の中では謎すぎて。
「……っ、疲れる、考えるの止めよう…」
はあ…っと大きく息を吐き出して肩を上下させてから、心の中を不器用に整理する。
「慣れないことを考えるものじゃないな…」
滑稽な自分に、ふふ…と短く笑うと、
お気に入りのショルダーバッグを肩に掛け直して、青信号になった横断歩道をサクサクと渡り、辿り着いた書店の入り口をくぐった。
→