かわいい嘘 ・6
文字数 1,065文字
「今日は、結構お酒飲んだの?」
「…あ、やっぱり、匂い分かります…?」
「ううん、それは平気。少し気怠そうだから気になっただけ…、大丈夫?」
「平気です…。私のことより、城崎さんの具合のほうが心配ですよ」
「えっ、」
「…ん? …あ、なんでもないです」
ヤバイ、ほんとにちょっと酔ってる…。
さりげなく誤魔化したつもりだけど、この人にそれが通用どうかは分からない。
不自然な笑みを晒してしまいながらリビングに戻ると、背後から続いた城崎さんが壁のからくり時計を見遣った。
「思ってたよりも、帰って来るのが早かったね」
「…そうかな」
「だってまだ、22時過ぎたところでしょ? 二次会へは行かなかったんだ?」
「………行くつもり、だったんですけどね」
「飲みすぎたから、行くのやめたの?」
「…、そういうわけでもない…」
コートを脱ぎ、ダイニングの椅子に掛けてひっそり呟くと、
酒気が回るせいで普段よりスローダウンした思考のまま、持ち帰った袋をテーブルの上に乗せた。
「おいしいアイスクリーム屋さんが、目に留まったので…」
「え? 『アイスクリーム屋さん』…?」
よほど不可解だったのか、言葉尻が見事にフェードアウトしている。
「ちょっと、いいなって思って…」
「……アイスクリーム屋さんが?」
「そう…、だから、二次会へ行くのをやめて帰ってきた…と」
「…うん??」
いまいち把握できないのか眉を顰めて小首を傾げる城崎さんのことをぼんやりと見ていたが、
このままだと、また出かけるときのようなやり取りのループが続きそうだったので、
「これ、アイスです、シャーベットみたいな…、喉越しがいいかな、と」
対話の進展を試みて、袋の中身を確認しながら告げた。
…が、
今もなお、目をパチクリさせる城崎さんの面持ちに、今度は私が眉根を寄せた。
「…なんです?」
「柚月ちゃん…、」
「はい」
「確か、僕の知る限りでは、スイーツってあまり好きじゃなかったよね?」
「ええ、まあ…」
「じゃあ、どうして、アイスクリーム屋さんを見て『いいな』って思ったの?」
「え…?」
「どうして、そう思ったの?」
「まあその…、」
「うん」
「シャーベットとかは、お酒を飲みすぎたときとか、ちょっと食べたくなることがあるっていうか…」
「………そう」
「…何か?」
「うん? …こういう嘘って、可愛いなと思って」
「…、嘘ではありません…」
(…お酒をいつもより飲んだということに関しては)
内心で言葉を添えて、空威張りみたく開き直る。
(ああでも、たぶん、ちょっと見破られてる…)
嘘も方便という諺を隠れ蓑にしながら、再び袋の中のアイスに視線を投じた。
→
「…あ、やっぱり、匂い分かります…?」
「ううん、それは平気。少し気怠そうだから気になっただけ…、大丈夫?」
「平気です…。私のことより、城崎さんの具合のほうが心配ですよ」
「えっ、」
「…ん? …あ、なんでもないです」
ヤバイ、ほんとにちょっと酔ってる…。
さりげなく誤魔化したつもりだけど、この人にそれが通用どうかは分からない。
不自然な笑みを晒してしまいながらリビングに戻ると、背後から続いた城崎さんが壁のからくり時計を見遣った。
「思ってたよりも、帰って来るのが早かったね」
「…そうかな」
「だってまだ、22時過ぎたところでしょ? 二次会へは行かなかったんだ?」
「………行くつもり、だったんですけどね」
「飲みすぎたから、行くのやめたの?」
「…、そういうわけでもない…」
コートを脱ぎ、ダイニングの椅子に掛けてひっそり呟くと、
酒気が回るせいで普段よりスローダウンした思考のまま、持ち帰った袋をテーブルの上に乗せた。
「おいしいアイスクリーム屋さんが、目に留まったので…」
「え? 『アイスクリーム屋さん』…?」
よほど不可解だったのか、言葉尻が見事にフェードアウトしている。
「ちょっと、いいなって思って…」
「……アイスクリーム屋さんが?」
「そう…、だから、二次会へ行くのをやめて帰ってきた…と」
「…うん??」
いまいち把握できないのか眉を顰めて小首を傾げる城崎さんのことをぼんやりと見ていたが、
このままだと、また出かけるときのようなやり取りのループが続きそうだったので、
「これ、アイスです、シャーベットみたいな…、喉越しがいいかな、と」
対話の進展を試みて、袋の中身を確認しながら告げた。
…が、
今もなお、目をパチクリさせる城崎さんの面持ちに、今度は私が眉根を寄せた。
「…なんです?」
「柚月ちゃん…、」
「はい」
「確か、僕の知る限りでは、スイーツってあまり好きじゃなかったよね?」
「ええ、まあ…」
「じゃあ、どうして、アイスクリーム屋さんを見て『いいな』って思ったの?」
「え…?」
「どうして、そう思ったの?」
「まあその…、」
「うん」
「シャーベットとかは、お酒を飲みすぎたときとか、ちょっと食べたくなることがあるっていうか…」
「………そう」
「…何か?」
「うん? …こういう嘘って、可愛いなと思って」
「…、嘘ではありません…」
(…お酒をいつもより飲んだということに関しては)
内心で言葉を添えて、空威張りみたく開き直る。
(ああでも、たぶん、ちょっと見破られてる…)
嘘も方便という諺を隠れ蓑にしながら、再び袋の中のアイスに視線を投じた。
→