かわいい嘘 ・5

文字数 904文字

颯太に無謀な飲酒をさせないように。

できるだけ、男子クラスメイトの気持ちも蔑ろにしないように。

せっかくのみんなの楽しい雰囲気を壊さないように。

理由はいくつかあるけれど、ちょっとだけ、無茶をしたかもしれない。

お酒は飲めるけど、ロックのブランデー、しかも一気飲みを体験したのはもちろん今日が初めてで。

「……、」

持っていたバッグと、途中から加わった手荷物の袋を心なしか死守するようにしながら、
気を抜けばおぼつかない足取りになるのをなんとか平常に保ちつつ、帰り道を辿る。

(…これは完全に、二日酔いになりそうだ)

ふふ…と小さく笑う。

結局、城崎さんからの連絡がないところを見ると、おそらく彼の体調も悪化はしていないのだろう。


(…ちゃんと寝てるかな)

ようやく家に着き、ふらふらとダイニングに入ると、キッチンカウンターの奥から音がしてそちらに視線を向けた。

気配の正体は、今夜、一人しかいない。

「…こら。寝てろって言ったのに」
「———」

幽霊でも見たかのように目を見張る城崎さんを一瞥すれば、酔いのせいもあってか言葉はストレートに滑り出る。

「もう、なんで起きてるの」
「…、」

(…今の私、そんなに珍しいかな…?)

少し茫然としている城崎さんを観察しつつ、
体調不良の人の前でアルコールの匂いをさせるのは不謹慎だと考えて、いつもより距離感には気を付けて立ち位置を探った。

「ただいま」
「おかえり…、」

私の二の句に、キョトンとした状態から抜け出した城崎さんはいつものように挨拶を打ち返して。
今ベッドから起きている理由を、『喉が渇いたから…』と少し掠れた声で付け足した。

(出かける前に、飲み物を部屋に用意しておいてあげれば良かったな…)

「…熱は?」
「あ、うん…、だいぶ下がってきたよ」
「良かった。…他に具合が悪いところは?」
「ううん、ないよ、大丈夫」
「……お父さんに借りた半纏、こうしてじっくり見ると結構似合ってますね」
「ありがと。中綿がダウンだから、すごくあったかいよ」
「それは良かったです…」
「同窓会楽しかった?」
「ええまあ…、みんなに会えて大満足でした」
「…、そっか」

物柔らかに微笑んだが、少し表情を曇らせた城崎さんは心配そうに続けた。



ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

藤沢柚月(フジサワ ユヅキ)23歳

主人公

特異な経歴ゆえに若くして医師


H162cm

城崎咲也(キザキ サクヤ)26歳

私立探偵事務所の所長


H179cm

真鍋颯太(マナベ ソウタ)23歳
柚月の幼馴染


H170cm

石羽 響也(イシバ キョウヤ)27歳

柚月の友人


H175cm


久動 琉成(クドウ リュウセイ)28歳

柚月が勤める大学病院の先輩医師


H176cm

倉橋 舞雪(クラハシ マユキ)23歳

柚月の親友


H156cm

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み