Rainy Day ・6
文字数 1,135文字
「……うん、そうかもね」
「『かも』じゃない、そうなんです」
「……」
そっとバスタオルを取り去った城崎さんは、上体を屈めて私に視線を重ねる。
「…、」
なんとなく気まずくて、逃れるようにふいっと顔を背けた。
「小さい頃の家族ぐるみの付き合いを除けば、柚月ちゃんは、僕に会ったことが今回初めてだって思ってるでしょ?」
「……それが何か?」
「僕はね、違うから」
「え?」
「キミは全然気付いてないけど、僕はもう少し前から、大人になったキミのことを知っていたから」
「…え、」
「だから、気にしちゃうんだよね、キミのこと」
「……、」
どういう意味なの、それは…。
弾けた疑問符を手繰り寄せて城崎さんに視線を戻せば、どこか切なげな彼の瞳と交差した。
(……待って、そんな感じの眼差しは、ちょっと卑怯だ…)
途端に、自分の不愛想な態度を諫めてしまう。
言い方、ちょっとキツかったかな…とか。
吐き出した言葉はもう取り消しが効かないけど、もしも自分の態度で少しでも悲しい想いをさせてしまっていたとしたら、やっぱり心苦しい。
けれど、素直に謝りの言葉ひとつくらい言えばいいのに、それが出来ない自分は可愛げがなくて。
「……」
せめて普段通りの会話を続けることが出来ればと、そう思って二の句を紡いだ。
「…探偵さんだから、調べて知ったとかですか?」
「詳しいことは、また今度教えてあげるね」
「……なんですか、それ」
「気になる?」
「普通は気になりませんか?」
「そうかもしれないけど…、また今度ね」
「……」
この人の飄々とかわすような言い草が気に入らないから、無駄に悶々としてしまうけど。
「……ま、いっか」
私の言い方だったりで、いちいち傷付いていないならそれでいい。
「柚月ちゃん、やっぱり思った通りの子だなあ」
「……何がです?」
「優しいよね、とても」
「…は? それ、さっきからの話の流れに関係あります?」
「あるよ。僕に対して態度が悪かったとか、さっきから思ってたでしょ?」
「——」
なんでこう、あっさりとバレるんだろう…。
「図星だ」
「ち…、違いますっ、全然、そんなこと思ってなんか…、」
「分かりやすい子って大好き」
ぽん、と。
城崎さんの大きな手が、私の頭に優しく乗せられた。
さりげなく緩く髪を撫でる手つきに、クスクスと小さな微笑がブレンドされていて。
「じょ、冗談やめてもらえます!?」
「ほんと照れ屋で意地っ張りだなあ…、これも思った通り」
「うるさいのっ」
赤く熱を持ち始めた頬を見られたらマズイ。
楽しそうに笑う城崎さんにくるりと背を向けて、逃げるようにバスルームに向かった。
(…っ、調子狂うよ、もう…っ)
やっぱり、この世には、無駄にしてもいい<一期一会>はあるんだ…と。
心で強く思い巡らせながら。
volume.3 Rainy Day END
「『かも』じゃない、そうなんです」
「……」
そっとバスタオルを取り去った城崎さんは、上体を屈めて私に視線を重ねる。
「…、」
なんとなく気まずくて、逃れるようにふいっと顔を背けた。
「小さい頃の家族ぐるみの付き合いを除けば、柚月ちゃんは、僕に会ったことが今回初めてだって思ってるでしょ?」
「……それが何か?」
「僕はね、違うから」
「え?」
「キミは全然気付いてないけど、僕はもう少し前から、大人になったキミのことを知っていたから」
「…え、」
「だから、気にしちゃうんだよね、キミのこと」
「……、」
どういう意味なの、それは…。
弾けた疑問符を手繰り寄せて城崎さんに視線を戻せば、どこか切なげな彼の瞳と交差した。
(……待って、そんな感じの眼差しは、ちょっと卑怯だ…)
途端に、自分の不愛想な態度を諫めてしまう。
言い方、ちょっとキツかったかな…とか。
吐き出した言葉はもう取り消しが効かないけど、もしも自分の態度で少しでも悲しい想いをさせてしまっていたとしたら、やっぱり心苦しい。
けれど、素直に謝りの言葉ひとつくらい言えばいいのに、それが出来ない自分は可愛げがなくて。
「……」
せめて普段通りの会話を続けることが出来ればと、そう思って二の句を紡いだ。
「…探偵さんだから、調べて知ったとかですか?」
「詳しいことは、また今度教えてあげるね」
「……なんですか、それ」
「気になる?」
「普通は気になりませんか?」
「そうかもしれないけど…、また今度ね」
「……」
この人の飄々とかわすような言い草が気に入らないから、無駄に悶々としてしまうけど。
「……ま、いっか」
私の言い方だったりで、いちいち傷付いていないならそれでいい。
「柚月ちゃん、やっぱり思った通りの子だなあ」
「……何がです?」
「優しいよね、とても」
「…は? それ、さっきからの話の流れに関係あります?」
「あるよ。僕に対して態度が悪かったとか、さっきから思ってたでしょ?」
「——」
なんでこう、あっさりとバレるんだろう…。
「図星だ」
「ち…、違いますっ、全然、そんなこと思ってなんか…、」
「分かりやすい子って大好き」
ぽん、と。
城崎さんの大きな手が、私の頭に優しく乗せられた。
さりげなく緩く髪を撫でる手つきに、クスクスと小さな微笑がブレンドされていて。
「じょ、冗談やめてもらえます!?」
「ほんと照れ屋で意地っ張りだなあ…、これも思った通り」
「うるさいのっ」
赤く熱を持ち始めた頬を見られたらマズイ。
楽しそうに笑う城崎さんにくるりと背を向けて、逃げるようにバスルームに向かった。
(…っ、調子狂うよ、もう…っ)
やっぱり、この世には、無駄にしてもいい<一期一会>はあるんだ…と。
心で強く思い巡らせながら。
volume.3 Rainy Day END