かわいい嘘 ・7
文字数 1,014文字
「どれにしますか?」
「……」
「オレンジ・グレープ・メロン・アップル…、ベタな種類ですけど、サッパリした感じのものを選んで買ったので、」
「柚月ちゃんが、珍しく食べたくなったんでしょ?」
「…、」
「自分で買って来たんだから、まずは好きなものを選んで食べなよ?」
柔和に眦を細めた瞳の色が、王手を掛けるようにキラリと光沢を帯びた気がした。
「……、」
少し思い惑ってから、ちらっと城崎さんを見る。
「城崎さんの分も、買って来たので…、」
「違う」
「…っ、」
「<僕の分も>じゃなくて、<僕だけのために>でしょ?」
「…、」
「『お酒を飲みすぎたときに食べたくなることがある』だなんて嘘」
「——…」
「熱がある僕に食べさせてあげようって思ってくれたんだよね?」
目に見えて口ごもってしまった私に、城崎さんは途端に切なげ瞳を揺らした。
「…——」
彼の整った長い指先が、一瞬だけ私の頬に細やかに触れて、そして名残惜しそうにゆっくりと離れる。
「アイス…、食べたくもないのに選べって言われても、困っちゃうよね?」
「っ…、」
「ありがとね、柚月ちゃん…。きっと、僕のことが心配だったから、早く帰って来てくれたんだよね?」
「——そ、そんなんじゃない…です…」
「ほんとは最初から、二次会へ行くつもりもなかったんでしょ」
「ち、違うってば、行くつもりだったけど…、」
「ふーん?」
「アイス屋さんが…、」
「まだ言う?」
見抜いてますと言わんばかりに、城崎さんはクスクスと笑った。
「お酒も、同窓会は楽しかったみたいだから、良いお酒だったのかもしれないけど…、酔いが回りやすくなっちゃうほどの飲み方を選んだ理由が、キミの中にあったのかな?」
「——べ、別に…、」
「これもビンゴ」
「…、」
「あまり無茶しないでね? …心配でたまらなくなるから」
「……」
(やっぱり、全部バレちゃうんだな…)
諦めたように、ちょこんと項垂れて。
いつものように<余計なお世話だ>と言い返すことができないのは、きっと、酔っ払ってて心がおおらかになってるから。
それに今は、
城崎さんのしっとりした低音が、なんだかとても耳に心地よくて。
「…心得ておきます…」
おとなしく寝かし付けられる子どものように反論もせず、素直に言葉を受け入れる。
「…ほんとにありがとう、柚月ちゃん」
「……いえ」
嬉しそうな城崎さんの笑顔を眩しく感じてしまう自分に胸の内で戸惑いながらも。
その心のどこかで、
この人には敵わないのかもしれない、と思い始めていた。
→
「……」
「オレンジ・グレープ・メロン・アップル…、ベタな種類ですけど、サッパリした感じのものを選んで買ったので、」
「柚月ちゃんが、珍しく食べたくなったんでしょ?」
「…、」
「自分で買って来たんだから、まずは好きなものを選んで食べなよ?」
柔和に眦を細めた瞳の色が、王手を掛けるようにキラリと光沢を帯びた気がした。
「……、」
少し思い惑ってから、ちらっと城崎さんを見る。
「城崎さんの分も、買って来たので…、」
「違う」
「…っ、」
「<僕の分も>じゃなくて、<僕だけのために>でしょ?」
「…、」
「『お酒を飲みすぎたときに食べたくなることがある』だなんて嘘」
「——…」
「熱がある僕に食べさせてあげようって思ってくれたんだよね?」
目に見えて口ごもってしまった私に、城崎さんは途端に切なげ瞳を揺らした。
「…——」
彼の整った長い指先が、一瞬だけ私の頬に細やかに触れて、そして名残惜しそうにゆっくりと離れる。
「アイス…、食べたくもないのに選べって言われても、困っちゃうよね?」
「っ…、」
「ありがとね、柚月ちゃん…。きっと、僕のことが心配だったから、早く帰って来てくれたんだよね?」
「——そ、そんなんじゃない…です…」
「ほんとは最初から、二次会へ行くつもりもなかったんでしょ」
「ち、違うってば、行くつもりだったけど…、」
「ふーん?」
「アイス屋さんが…、」
「まだ言う?」
見抜いてますと言わんばかりに、城崎さんはクスクスと笑った。
「お酒も、同窓会は楽しかったみたいだから、良いお酒だったのかもしれないけど…、酔いが回りやすくなっちゃうほどの飲み方を選んだ理由が、キミの中にあったのかな?」
「——べ、別に…、」
「これもビンゴ」
「…、」
「あまり無茶しないでね? …心配でたまらなくなるから」
「……」
(やっぱり、全部バレちゃうんだな…)
諦めたように、ちょこんと項垂れて。
いつものように<余計なお世話だ>と言い返すことができないのは、きっと、酔っ払ってて心がおおらかになってるから。
それに今は、
城崎さんのしっとりした低音が、なんだかとても耳に心地よくて。
「…心得ておきます…」
おとなしく寝かし付けられる子どものように反論もせず、素直に言葉を受け入れる。
「…ほんとにありがとう、柚月ちゃん」
「……いえ」
嬉しそうな城崎さんの笑顔を眩しく感じてしまう自分に胸の内で戸惑いながらも。
その心のどこかで、
この人には敵わないのかもしれない、と思い始めていた。
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