ピリオド. ・3
文字数 1,233文字
「城崎さん」
「うん? なに?」
「はい、握手」
「…握手?」
いきなり手を突き出して握手を求める私に、城崎さんはきょとんと瞬きをして右手をこちらに伸ばす。
「どうしたの?」
「……」
返答することなく、ぎゅっと絡め取るように城崎さんの手を握る。
「え、柚月ちゃん?」
「……あったかい」
「あ…僕の手? そうなんだよね、寒い冬にはなかなか重宝するでしょ?」
「違う、熱い…、」
「……え」
「熱いですよ、城崎さんっ」
目元を引き締めた険しい表情で前に身を乗り出すと、途端に狼狽えた城崎さんの額に手のひらを当てた。
「やっぱり…、熱がありますね!?」
改めて見ると、顔だって赤い。
「…、バレちゃった…。気付かれないように、柚月ちゃんの隣に座るのを我慢したのに」
こんなにすぐにバレるなら、引っ付いて座れば良かった…と、城崎さんは軽く頬を膨らませてむくれて見せた。
「何をのんきなこと言ってるんですか、まったくもう…」
「さすがお医者さん、鋭いね」
「医者でなくても気付きますよっ。とにかく、もう帰りましょう、うちの病院で診察しますから」
「大丈夫だよ、診察なら、柚月ちゃんのおうちの病院でもう診てもらったから。昨日の夕方から少し熱があって…疲れからくる熱だって。移さないから安心して?」
「移すとか移さないとかの話をしてるわけじゃありません。そもそも移ったところで気にしません」
「…、」
「とにかく帰りましょう、疲れの熱なら尚更、すぐにでも横になったほうがいいです」
「……ねえ、」
「なんですか?」
「移っても気にしない、みたいなことを言ってるけど…、もしも僕のこの熱が移るようなものだったら、柚月ちゃん、もらってくれるの?」
「もらいますよ、城崎さんの病症なら」
「……僕の病症なら、って……ほんとに?」
「あっ、と…、まあ、それはなんていうか…、医師として、ですかね…」
「…あは、そうだとしても嬉しい」
「……、それはともかく、早く帰りましょう」
「だから、帰らなくても大丈夫だってば」
「ダメですよ、とても大丈夫だとは思えません」
勢いよく立ち上がった私とは正反対に、城崎さんはソファーに背を沈めて表情を曇らせた。
「嫌。帰りたくない」
「もう、なんでそんな——」
「帰ったら、柚月ちゃんとこういった時間をなかなか過ごせないでしょ?」
「…、」
「家に帰ったら、僕たちすれ違ってばかりじゃない。二人でこうして向き合って話すこともほとんどないのに…」
「……」
「だから、嫌。帰らないから」
「そんなわがまま言わないでくださいよ…」
「もともとわがままだもん、僕」
開き直った様子で軽く唇を窄めた後、一歩も引かないといった素振りで城崎さんは視線を横に流す。
(困った…、城崎さんはこうなってしまうと、なかなか折れてくれない…)
「……、」
折れてくれないなら、こっちから折り合いをつけるしかない。
「分かりました。じゃあ、家に帰ってからも、時間の許す限り傍にいますから」
どうしたものかと考えあぐねた結果の決断。
幼い子どもを慰めるように優しく見下ろした。
→
「うん? なに?」
「はい、握手」
「…握手?」
いきなり手を突き出して握手を求める私に、城崎さんはきょとんと瞬きをして右手をこちらに伸ばす。
「どうしたの?」
「……」
返答することなく、ぎゅっと絡め取るように城崎さんの手を握る。
「え、柚月ちゃん?」
「……あったかい」
「あ…僕の手? そうなんだよね、寒い冬にはなかなか重宝するでしょ?」
「違う、熱い…、」
「……え」
「熱いですよ、城崎さんっ」
目元を引き締めた険しい表情で前に身を乗り出すと、途端に狼狽えた城崎さんの額に手のひらを当てた。
「やっぱり…、熱がありますね!?」
改めて見ると、顔だって赤い。
「…、バレちゃった…。気付かれないように、柚月ちゃんの隣に座るのを我慢したのに」
こんなにすぐにバレるなら、引っ付いて座れば良かった…と、城崎さんは軽く頬を膨らませてむくれて見せた。
「何をのんきなこと言ってるんですか、まったくもう…」
「さすがお医者さん、鋭いね」
「医者でなくても気付きますよっ。とにかく、もう帰りましょう、うちの病院で診察しますから」
「大丈夫だよ、診察なら、柚月ちゃんのおうちの病院でもう診てもらったから。昨日の夕方から少し熱があって…疲れからくる熱だって。移さないから安心して?」
「移すとか移さないとかの話をしてるわけじゃありません。そもそも移ったところで気にしません」
「…、」
「とにかく帰りましょう、疲れの熱なら尚更、すぐにでも横になったほうがいいです」
「……ねえ、」
「なんですか?」
「移っても気にしない、みたいなことを言ってるけど…、もしも僕のこの熱が移るようなものだったら、柚月ちゃん、もらってくれるの?」
「もらいますよ、城崎さんの病症なら」
「……僕の病症なら、って……ほんとに?」
「あっ、と…、まあ、それはなんていうか…、医師として、ですかね…」
「…あは、そうだとしても嬉しい」
「……、それはともかく、早く帰りましょう」
「だから、帰らなくても大丈夫だってば」
「ダメですよ、とても大丈夫だとは思えません」
勢いよく立ち上がった私とは正反対に、城崎さんはソファーに背を沈めて表情を曇らせた。
「嫌。帰りたくない」
「もう、なんでそんな——」
「帰ったら、柚月ちゃんとこういった時間をなかなか過ごせないでしょ?」
「…、」
「家に帰ったら、僕たちすれ違ってばかりじゃない。二人でこうして向き合って話すこともほとんどないのに…」
「……」
「だから、嫌。帰らないから」
「そんなわがまま言わないでくださいよ…」
「もともとわがままだもん、僕」
開き直った様子で軽く唇を窄めた後、一歩も引かないといった素振りで城崎さんは視線を横に流す。
(困った…、城崎さんはこうなってしまうと、なかなか折れてくれない…)
「……、」
折れてくれないなら、こっちから折り合いをつけるしかない。
「分かりました。じゃあ、家に帰ってからも、時間の許す限り傍にいますから」
どうしたものかと考えあぐねた結果の決断。
幼い子どもを慰めるように優しく見下ろした。
→