赤い糸 ・7
文字数 1,152文字
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幼稚園に到着し、白いお城をモチーフにしたような大きな建物を仰ぎ見る。
いきいきと映える外観は、園児たちのパワーが詰まっているようで、眺めているだけでも元気がもらえる気がした。
枝木や木の葉などのナチュラルな素材をあしらった門は、まるで童話に出てくる森の入り口みたいで、
感慨深く眺めながらそこをくぐり、玄関ホールに踏み入る。
(わあ、結構な人の数だな…)
想像以上の数の来賓や保護者が混在しているホール内で圧倒されつつも、一人の園児も見当たらないことが不思議で辺りを見澄ました。
「みんな、まだ教室にいるんじゃないの?」
穏やかな声音が右上から降って来て、
それを辿ると気遣うような笑みを浮かべた城崎さんと目が合った。
「柚月ちゃん、迷子になった人みたいになってるよ」
「すみません、こういった場所は初めてで慣れてなくて…」
「僕もだから気にしないで」
「あの…、ちょっと、中に覗きに行ってみてもいいですかね…?」
「さっきから中に入っていく親御さんたちもいるみたいだし、別にいいんじゃない? 何か聞かれたら招待状を見せればいいんだし、大丈夫でしょ。…行ってみる?」
「行きましょうっ」
意気込んだ返事とは正反対に遠慮がちに廊下を進んでいくと、
城崎さんが話していた通り、すでに教室内の様子を微笑ましそうに見入る保護者たちの姿が目に入った。
教室の扉にも、画用紙や折り紙で作った大輪の花や昆虫、動物などが装飾されていて、それらを前にまた目を輝かせてしまう。
「どうやって作るんだろうって、すごく考えてるでしょ?」
「分かります? これってやっぱり、幼稚園の先生が作ったんですよね?」
「そうだと思うよ」
「すごいなあ」
色とりどりに作られた飾りを感嘆しきりに眺めてから、園児たちが集う教室を外から一つ一つ見て回る。
窓の向こう側は夢の国のように明るく賑やかで、楽し気に過ごす園児たちを目にして頬は緩みっぱなしだった。
「みんな可愛いなー」
「まるで別人みたいだね」
「……誰がです」
「柚月ちゃん」
「…、もしかして、嫌味ですか?」
「うん」
「っ、うるさいですよっ」
「あははっ、嫌味って言うのは冗談だけど…、今日の柚月ちゃんはいつにも増して見てたら飽きなくて、可愛いって言うのが本音」
「…か、可愛くはないですっ」
鼻筋を顰めてちろりと舌を出す表情を生み出したのは、ポッと熱を灯しそうになる顔を誤魔化すための完全な照れ隠しで。
気恥ずかしさから、逃れるように前を向いて再び教室に視線を投じる。
(気にしない、気にしない…)
そこに、『ふふ…』と小さな笑声が聞こえて、そのことにも気付かないフリで気を紛らわせようと試みていたが、
「…ね、柚月ちゃん」
城崎さんは私の耳元にそっと唇を寄せたかと思うと、
「せっかくだから、手、繋ごうか」
少し甘えるようなしっとりした低音を奏でた。
→
幼稚園に到着し、白いお城をモチーフにしたような大きな建物を仰ぎ見る。
いきいきと映える外観は、園児たちのパワーが詰まっているようで、眺めているだけでも元気がもらえる気がした。
枝木や木の葉などのナチュラルな素材をあしらった門は、まるで童話に出てくる森の入り口みたいで、
感慨深く眺めながらそこをくぐり、玄関ホールに踏み入る。
(わあ、結構な人の数だな…)
想像以上の数の来賓や保護者が混在しているホール内で圧倒されつつも、一人の園児も見当たらないことが不思議で辺りを見澄ました。
「みんな、まだ教室にいるんじゃないの?」
穏やかな声音が右上から降って来て、
それを辿ると気遣うような笑みを浮かべた城崎さんと目が合った。
「柚月ちゃん、迷子になった人みたいになってるよ」
「すみません、こういった場所は初めてで慣れてなくて…」
「僕もだから気にしないで」
「あの…、ちょっと、中に覗きに行ってみてもいいですかね…?」
「さっきから中に入っていく親御さんたちもいるみたいだし、別にいいんじゃない? 何か聞かれたら招待状を見せればいいんだし、大丈夫でしょ。…行ってみる?」
「行きましょうっ」
意気込んだ返事とは正反対に遠慮がちに廊下を進んでいくと、
城崎さんが話していた通り、すでに教室内の様子を微笑ましそうに見入る保護者たちの姿が目に入った。
教室の扉にも、画用紙や折り紙で作った大輪の花や昆虫、動物などが装飾されていて、それらを前にまた目を輝かせてしまう。
「どうやって作るんだろうって、すごく考えてるでしょ?」
「分かります? これってやっぱり、幼稚園の先生が作ったんですよね?」
「そうだと思うよ」
「すごいなあ」
色とりどりに作られた飾りを感嘆しきりに眺めてから、園児たちが集う教室を外から一つ一つ見て回る。
窓の向こう側は夢の国のように明るく賑やかで、楽し気に過ごす園児たちを目にして頬は緩みっぱなしだった。
「みんな可愛いなー」
「まるで別人みたいだね」
「……誰がです」
「柚月ちゃん」
「…、もしかして、嫌味ですか?」
「うん」
「っ、うるさいですよっ」
「あははっ、嫌味って言うのは冗談だけど…、今日の柚月ちゃんはいつにも増して見てたら飽きなくて、可愛いって言うのが本音」
「…か、可愛くはないですっ」
鼻筋を顰めてちろりと舌を出す表情を生み出したのは、ポッと熱を灯しそうになる顔を誤魔化すための完全な照れ隠しで。
気恥ずかしさから、逃れるように前を向いて再び教室に視線を投じる。
(気にしない、気にしない…)
そこに、『ふふ…』と小さな笑声が聞こえて、そのことにも気付かないフリで気を紛らわせようと試みていたが、
「…ね、柚月ちゃん」
城崎さんは私の耳元にそっと唇を寄せたかと思うと、
「せっかくだから、手、繋ごうか」
少し甘えるようなしっとりした低音を奏でた。
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