赤い糸 ・5 …城崎ver.<3>

文字数 710文字

「いいな?」
「…分かったから、早く仕事に戻りなよ」
「っ、と、そうだな」
「……」
「それじゃ、城崎、またな」
「……、」
「——」
「…——久動さん!」

既に数歩進んだ白衣の背に思わず声を投げる。
職務に戻る手前の勇壮な面差しが、キョトンとしながら律儀に振り返った。

「どうした?」
「……」
「城崎?」
「……いつも心配してくれて…、ありがと」
「——な、なんだよ、いきなり!」
「ちょっと、言いたくなっただけ」
「おまえがそんなに素直だと、明日はおそらく猛吹雪だな。いや、でかい雹が降ってくるかもしれない」

今までに何度か見たことのある冗談を込めたその破顔は、やっぱり、どんなときでも慈愛に満ちていて。

「…久動さんこそ」
「ん?」
「誰かのために動きすぎて、いきなりくたばったりしないでよ?」
「ハハッ、大丈夫だよ」
「約束だからね? 僕が嫌味を言う相手が一人でも減ったらつまらないから」
「そうだな、気を付けるよ」

僕の言葉を<意地っ張りな激励>と受け取った久動さんは、ちょっぴり嬉しそうに笑って軽く手を挙げると、また踵を返す。


(……ほんとにお父さんみたい)

毎度毎度、この人は。
真面目で厳格なところもあって、でも、その情け深さはどんなときも無限大で。

そして、まるで僕は、いつまでも<反抗的な思春期の息子>。

(久動さん、28歳だっけ…。僕のお父さんに例えるには、若すぎて無理があるけど…、)

僕の中で、ここまで適役な人もそういない。

(結局…、なんだかんだで、大事な人だから困るんだよね…)

ふふ、と笑って。

サラッと軽く手を振り返した僕は、誰にも真似できないような精悍な白衣の勇姿を、
いつもよりずっと素直な眼差しで見送っていた。




赤い糸 ・5 …城崎ver. END
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登場人物紹介

藤沢柚月(フジサワ ユヅキ)23歳

主人公

特異な経歴ゆえに若くして医師


H162cm

城崎咲也(キザキ サクヤ)26歳

私立探偵事務所の所長


H179cm

真鍋颯太(マナベ ソウタ)23歳
柚月の幼馴染


H170cm

石羽 響也(イシバ キョウヤ)27歳

柚月の友人


H175cm


久動 琉成(クドウ リュウセイ)28歳

柚月が勤める大学病院の先輩医師


H176cm

倉橋 舞雪(クラハシ マユキ)23歳

柚月の親友


H156cm

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