不器用な心 ・5
文字数 1,055文字
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家に着いた頃にはもう夜も更けていて、どんよりと曇った気持ちのまま廊下を歩く。
「…、」
バスルームに向かう前に、いったん自室にコートや鞄を置きに行こうと階段を上った先で、
待ち伏せするように壁を背に腕を組んで立つ城崎さんの姿を目にし、足を止めた。
「おかえり、柚月ちゃん。遅かったね」
「……ただいま」
「どこに行ってたの?」
「…、病院——」
「病院にはいなかったね、やっぱり」
私の返答をねじ伏せるように、城崎さんは畳み掛けた。
『やっぱり』…と、チクリとした言葉を添えた理由を痛感して、背徳感が膨らむ。
でも、ここで怯むわけにはいかない。
呆れたような声色を遠慮なく吐き出した城崎さんを一瞥した私は、少しばかり尊大さを醸し出して見せた。
「病院まで、わざわざ行ったんですか?」
「今日、柚月ちゃんが一緒に行かないこと、あの子には連絡してなかったんだね?」
「…、」
「あの子までもが『別の日に三人で』って予定を延期すると思ったから、言わずにいたんでしょ?」
「さっきの私の質問の答えになってないですけど」
「……舞雪ちゃんが、僕と柚月ちゃんにって、クッキーを焼いてきてくれたんだよ」
「……」
「柚月ちゃんが仕事なら尚更、休憩の合間に食べてもらいたいっていうから、一緒に医局まで行ったんだ」
「…そうですか」
そういえば、舞雪からのL〇NEが幾つか入っていたが、未読のまま放置していた。
(後で適当な理由見つけて返さなきゃ…)
「…ねえ。聞きたいことがあるんだけど」
「なんですか?」
「どうして、舞雪ちゃんと僕を二人きりにしようとするの?」
「…、」
「僕と舞雪ちゃんの二人で食事に行かせるために、急に仕事が入ったなんて嘘ついたんでしょ? どうしてそういうことするの?」
「それを知ったところで——」
「僕が知りたいから。僕には知る権利があると思うけど?」
「……」
「ちゃんと答えて欲しいんだけど」
「……舞雪は、私が一緒でなくても、城崎さんと過ごせたら嬉しいと思うからです」
「仮に、舞雪ちゃんがそうだとしても、僕は全然嬉しくない」
城崎さんの眼差しが、一気に憂色に染まる。
そんな彼を見るのが辛くて、逃れるように視線を逸らした。
「いくら僕でも…、今のキミが何を考えてるのか分からないよ…」
「……、」
「ねえ、柚月ちゃん、何を考えてるのか教えてよ」
「………それは…、」
舞雪の幸せを、一人の友人として私が強く願う理由。
素直に抱くその想いを伝えれば、少しは理解してくれるだろうか。
「……、舞雪は、小さい頃から体が弱くて…、」
ほんのわずかに言い淀んだ後、静かに言葉を紡いだ。
→
家に着いた頃にはもう夜も更けていて、どんよりと曇った気持ちのまま廊下を歩く。
「…、」
バスルームに向かう前に、いったん自室にコートや鞄を置きに行こうと階段を上った先で、
待ち伏せするように壁を背に腕を組んで立つ城崎さんの姿を目にし、足を止めた。
「おかえり、柚月ちゃん。遅かったね」
「……ただいま」
「どこに行ってたの?」
「…、病院——」
「病院にはいなかったね、やっぱり」
私の返答をねじ伏せるように、城崎さんは畳み掛けた。
『やっぱり』…と、チクリとした言葉を添えた理由を痛感して、背徳感が膨らむ。
でも、ここで怯むわけにはいかない。
呆れたような声色を遠慮なく吐き出した城崎さんを一瞥した私は、少しばかり尊大さを醸し出して見せた。
「病院まで、わざわざ行ったんですか?」
「今日、柚月ちゃんが一緒に行かないこと、あの子には連絡してなかったんだね?」
「…、」
「あの子までもが『別の日に三人で』って予定を延期すると思ったから、言わずにいたんでしょ?」
「さっきの私の質問の答えになってないですけど」
「……舞雪ちゃんが、僕と柚月ちゃんにって、クッキーを焼いてきてくれたんだよ」
「……」
「柚月ちゃんが仕事なら尚更、休憩の合間に食べてもらいたいっていうから、一緒に医局まで行ったんだ」
「…そうですか」
そういえば、舞雪からのL〇NEが幾つか入っていたが、未読のまま放置していた。
(後で適当な理由見つけて返さなきゃ…)
「…ねえ。聞きたいことがあるんだけど」
「なんですか?」
「どうして、舞雪ちゃんと僕を二人きりにしようとするの?」
「…、」
「僕と舞雪ちゃんの二人で食事に行かせるために、急に仕事が入ったなんて嘘ついたんでしょ? どうしてそういうことするの?」
「それを知ったところで——」
「僕が知りたいから。僕には知る権利があると思うけど?」
「……」
「ちゃんと答えて欲しいんだけど」
「……舞雪は、私が一緒でなくても、城崎さんと過ごせたら嬉しいと思うからです」
「仮に、舞雪ちゃんがそうだとしても、僕は全然嬉しくない」
城崎さんの眼差しが、一気に憂色に染まる。
そんな彼を見るのが辛くて、逃れるように視線を逸らした。
「いくら僕でも…、今のキミが何を考えてるのか分からないよ…」
「……、」
「ねえ、柚月ちゃん、何を考えてるのか教えてよ」
「………それは…、」
舞雪の幸せを、一人の友人として私が強く願う理由。
素直に抱くその想いを伝えれば、少しは理解してくれるだろうか。
「……、舞雪は、小さい頃から体が弱くて…、」
ほんのわずかに言い淀んだ後、静かに言葉を紡いだ。
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