不器用な心 ・2
文字数 1,188文字
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「一緒に行くって言ってたのに」
城崎さんの不満に満ちた視線が全身をチクチクと突き刺す。
<食事に行くなら三人で>
その条件を、当日になってあっさりと翻した私に向けて、さらにどんな文句をぶつけてやろうかと不服そうに口元が歪んでいる。
「こういうことって、もっと早くから言うべきなんじゃないの?」
「急に休みが変わって仕事になったんですよ…、すみません」
「それって、直前まで分からなかったってこと?」
「…そうです」
「ほんとあり得ないんだけど」
「……」
視線を伏せて黙り込む私を見た城崎さんは、逃げ場を崩すように低く声を並べた。
「ほんとは最初から、一緒に行くつもりなかったでしょ?」
「…、」
ズバリ言い当てられて、すぐに切り返せず閉口してしまう。
だけど、
『実はそうなんです』…なんて素直に認めることはできないから、
「考えすぎですよ」
開き直るように打ち返してリビングのソファーから立ち上がった。
<違う>とは言っていないから嘘にはならない。
城崎さんの豊かな想像力を客観的に指摘しただけ。
(我ながら、落ち着いて振舞えた…)
むくれたように押し黙る城崎さんを視界の端で捉えても、構わずにファーコートを手に取り、涼しい顔つきで話をすり替えた。
「おいしいご飯、食べてきてくださいね」
「…行きたくないんだけど」
「…、」
「断ってもいい?」
「それは困ります」
「僕だって困る。キミも一緒に行くと思ってたから、承諾したのに」
「…無理を聞いてくれて、感謝してます」
その想いに嘘はない。
城崎さんの言い分も分かるし、私が彼の立場ならきっと同じことを思い、同じように反論するだろう。
でも。
舞雪の城崎さんへの淡い恋心が脳裏でチラついて、どうしても引くことができない。
(…今ならまだ、私の心はリセットできる)
「……」
……できるはず。
そう決意に似た気持ちを抱きながらも、また自然と口ごもってしまった。
お互いの沈黙が虚空に溶けて。
「…はぁ…、」
大きく吐き出された城崎さんの溜め息に我に返ってそちらを見遣ると、少しばかり恨みがましい視線が飛んできた。
でも、すぐに諦めの色に切り替わったその双眸が、私の心にズキッとした痛みを残す。
(…あ…、やっぱり、この人はいつも…、)
「…柚月ちゃんの友達だから、僕、仕方なく行くんだよ? ありがたく思ってよね?」
最終的には、私の頼みを聞き入れてくれるのだ。
「ありがたく、思ってます…」
言い方は悪いけど、計画通りの良い流れ。
私の自己優先の意思などいらないのだから、これでいい。
「…あの、ほんとにごめんなさい」
そう思いながらも、ひとりでに<ごめんなさい>が滑り出た。
「…今日は、舞雪のこと、よろしくお願いしますね?」
「ねえ、柚月ちゃん」
「はい?」
「今、『ごめんなさい』って言ってくれたのは、どういう意味での『ごめんなさい』?」
「…、え…?」
不可思議な質問を寄越す城崎さんを、探るように見つめ返した。
→
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「一緒に行くって言ってたのに」
城崎さんの不満に満ちた視線が全身をチクチクと突き刺す。
<食事に行くなら三人で>
その条件を、当日になってあっさりと翻した私に向けて、さらにどんな文句をぶつけてやろうかと不服そうに口元が歪んでいる。
「こういうことって、もっと早くから言うべきなんじゃないの?」
「急に休みが変わって仕事になったんですよ…、すみません」
「それって、直前まで分からなかったってこと?」
「…そうです」
「ほんとあり得ないんだけど」
「……」
視線を伏せて黙り込む私を見た城崎さんは、逃げ場を崩すように低く声を並べた。
「ほんとは最初から、一緒に行くつもりなかったでしょ?」
「…、」
ズバリ言い当てられて、すぐに切り返せず閉口してしまう。
だけど、
『実はそうなんです』…なんて素直に認めることはできないから、
「考えすぎですよ」
開き直るように打ち返してリビングのソファーから立ち上がった。
<違う>とは言っていないから嘘にはならない。
城崎さんの豊かな想像力を客観的に指摘しただけ。
(我ながら、落ち着いて振舞えた…)
むくれたように押し黙る城崎さんを視界の端で捉えても、構わずにファーコートを手に取り、涼しい顔つきで話をすり替えた。
「おいしいご飯、食べてきてくださいね」
「…行きたくないんだけど」
「…、」
「断ってもいい?」
「それは困ります」
「僕だって困る。キミも一緒に行くと思ってたから、承諾したのに」
「…無理を聞いてくれて、感謝してます」
その想いに嘘はない。
城崎さんの言い分も分かるし、私が彼の立場ならきっと同じことを思い、同じように反論するだろう。
でも。
舞雪の城崎さんへの淡い恋心が脳裏でチラついて、どうしても引くことができない。
(…今ならまだ、私の心はリセットできる)
「……」
……できるはず。
そう決意に似た気持ちを抱きながらも、また自然と口ごもってしまった。
お互いの沈黙が虚空に溶けて。
「…はぁ…、」
大きく吐き出された城崎さんの溜め息に我に返ってそちらを見遣ると、少しばかり恨みがましい視線が飛んできた。
でも、すぐに諦めの色に切り替わったその双眸が、私の心にズキッとした痛みを残す。
(…あ…、やっぱり、この人はいつも…、)
「…柚月ちゃんの友達だから、僕、仕方なく行くんだよ? ありがたく思ってよね?」
最終的には、私の頼みを聞き入れてくれるのだ。
「ありがたく、思ってます…」
言い方は悪いけど、計画通りの良い流れ。
私の自己優先の意思などいらないのだから、これでいい。
「…あの、ほんとにごめんなさい」
そう思いながらも、ひとりでに<ごめんなさい>が滑り出た。
「…今日は、舞雪のこと、よろしくお願いしますね?」
「ねえ、柚月ちゃん」
「はい?」
「今、『ごめんなさい』って言ってくれたのは、どういう意味での『ごめんなさい』?」
「…、え…?」
不可思議な質問を寄越す城崎さんを、探るように見つめ返した。
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