Step by Step ・7
文字数 1,206文字
「私は、K医大救命救急センターで医師をしています。おそらく、お子さんのこの症状は、高熱による熱性痙攣だと考えられます。今までに、お子さんの熱性痙攣の発作を経験したことはありますか?」
「い、いえ、今回が初めてで…、」
「熱性痙攣は、単純性のものであればだいたいは5分以内で治まって、その場合は予後も心配ありませんが、今の時期、ウィルスによる風邪が原因で、髄膜炎を引き起こす可能性も否めません。一度診察を受けたほうがいいので、救急車を手配しますから、到着までの間、お母さんはお子さんの体をできるだけ横に向けて抱いてあげてください」
「…はいっ、分かりました…!」
まるで繊細な宝物を扱うように、女性は子どもを大切に抱きかかえる。
その様からは、深淵のような情愛が伝わるようで。
「…今回、初めてのことでとても驚いたと思いますが、お子さんが心から頼れる存在は、今ここに、あなたしかいません」
「はいっ…」
「先ほどの、私の叱咤に気を引き締めたあなたはとても立派で、強い母親です」
「——!」
「これからも、お子さんをしっかり守ってあげてください」
「…っ、ありがとうございます…、ほんとに、ありがとうございます…!」
もう恐れなど感じさせない、母親としての強い煌めきを湛えながらの暖かな破顔。
その微笑に、私も応えるように頷き返した。
「柚月ちゃん、もう救急車の手配してるから」
「さすがっ、仕事が早いっ、助かります!」
気遣うように会話に入った城崎さんにも、こればかりは心からの謝意を示して頭を下げ、広がる笑顔を向けた。
︙
ほどなくして救急車が到着し、救命士に概要を告げて少女の搬送を見届けた後、
救急車が見えなくなるまでその場に立ち尽くしていた。
次第に痙攣も治まりを見せ始めていたから、おそらく予後も問題はないだろう。
「……」
安堵感からか、少し脱力して。
横に並んで立つ城崎さんをチラリと見遣ると、すでにこちらを向いていてちょっぴりビクッとなる。
「…ど、どうかしました?」
「お医者さんの柚月ちゃん、ヒーローみたいだった」
「別に…、医者ならみんな同じことをしますよ」
「…あの子、大丈夫だといいね」
「痙攣も落ち着いてきたので、おそらく大丈夫だと思います」
「そっか、良かった」
「…ええ」
「さっき、柚月ちゃんが怒った時、ちょっとかっこいいなって思っちゃった」
「ぜんっぜん! むしろ、怒ったりしてみっともなかったなと…。ただ、真剣度合いが増しちゃって、ああなっちゃう時があって…、」
「…うん」
「いつも思うんです、せっかく助かる命を絶対に取りこぼしたくないって…」
「うん…そうだよね。……、」
「…なんですか?」
「うん? なんでもないよ」
「…なんていうか、何か言おうとしませんでした?」
「……教えて欲しい?」
「……、欲しくない」
遠回しな口振りに、敢えて無関心な素振りで短く答える。
けれど、城崎さんはそれに気後れするどころか、感慨深げに目を細めて言葉を紡ぎ始めた。
→
「い、いえ、今回が初めてで…、」
「熱性痙攣は、単純性のものであればだいたいは5分以内で治まって、その場合は予後も心配ありませんが、今の時期、ウィルスによる風邪が原因で、髄膜炎を引き起こす可能性も否めません。一度診察を受けたほうがいいので、救急車を手配しますから、到着までの間、お母さんはお子さんの体をできるだけ横に向けて抱いてあげてください」
「…はいっ、分かりました…!」
まるで繊細な宝物を扱うように、女性は子どもを大切に抱きかかえる。
その様からは、深淵のような情愛が伝わるようで。
「…今回、初めてのことでとても驚いたと思いますが、お子さんが心から頼れる存在は、今ここに、あなたしかいません」
「はいっ…」
「先ほどの、私の叱咤に気を引き締めたあなたはとても立派で、強い母親です」
「——!」
「これからも、お子さんをしっかり守ってあげてください」
「…っ、ありがとうございます…、ほんとに、ありがとうございます…!」
もう恐れなど感じさせない、母親としての強い煌めきを湛えながらの暖かな破顔。
その微笑に、私も応えるように頷き返した。
「柚月ちゃん、もう救急車の手配してるから」
「さすがっ、仕事が早いっ、助かります!」
気遣うように会話に入った城崎さんにも、こればかりは心からの謝意を示して頭を下げ、広がる笑顔を向けた。
︙
ほどなくして救急車が到着し、救命士に概要を告げて少女の搬送を見届けた後、
救急車が見えなくなるまでその場に立ち尽くしていた。
次第に痙攣も治まりを見せ始めていたから、おそらく予後も問題はないだろう。
「……」
安堵感からか、少し脱力して。
横に並んで立つ城崎さんをチラリと見遣ると、すでにこちらを向いていてちょっぴりビクッとなる。
「…ど、どうかしました?」
「お医者さんの柚月ちゃん、ヒーローみたいだった」
「別に…、医者ならみんな同じことをしますよ」
「…あの子、大丈夫だといいね」
「痙攣も落ち着いてきたので、おそらく大丈夫だと思います」
「そっか、良かった」
「…ええ」
「さっき、柚月ちゃんが怒った時、ちょっとかっこいいなって思っちゃった」
「ぜんっぜん! むしろ、怒ったりしてみっともなかったなと…。ただ、真剣度合いが増しちゃって、ああなっちゃう時があって…、」
「…うん」
「いつも思うんです、せっかく助かる命を絶対に取りこぼしたくないって…」
「うん…そうだよね。……、」
「…なんですか?」
「うん? なんでもないよ」
「…なんていうか、何か言おうとしませんでした?」
「……教えて欲しい?」
「……、欲しくない」
遠回しな口振りに、敢えて無関心な素振りで短く答える。
けれど、城崎さんはそれに気後れするどころか、感慨深げに目を細めて言葉を紡ぎ始めた。
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