ありきたりなエール ・2
文字数 1,327文字
「元気そうだね」
「……」
久しぶりに目にした響也の姿は相変わらず堂々とした佇まいの寡黙な青年で、こちらがにこやかに微笑みかけても、口端を僅かに上げた笑みのみで返される。
(…全然、変わんないなー)
内心で苦笑しながらも、やっぱり長くご無沙汰していた友達に会えたことは嬉しくて、門から玄関までのアプローチを弾む気持ちで歩いた。
「今日が休みで良かったよ。仕事だったら会えないところだった」
「そんな偶然があると思うか?」
「え?」
「1ヶ月ほど前から、この日に帰国できるように調整していたからな」
「そうなんだ…、…え、でもそれってさ」
「おまえの勤める病院に、オフの日を問い合わせていた」
「げ、マジで?」
「文句でもあるか?」
「文句って言うか…、私に直接聞けばいいじゃん」
「俺がおまえとL〇NEをする暇がなかったからだ」
「そういう場合は、代わりに秘書さんに頼めばいいのに」
「俺以外の人間が、おまえに直接連絡を取ることが気に入らない。秘書なら、病院側に問い合わせるだけで事足りる」
「…なんだそれ」
意味不明な理由に思わず呆れてしまいながら、頬を引き攣らせて苦く笑う。
「柚月」
「なに?」
「しばらく見ないうちに、また綺麗になったな」
「手入れは主に父がやってるから…、父の得意分野なんだ」
「………」
「…ん?」
「……何の話だ?」
「え? 庭のガーデニングの…花のことじゃないの?」
「違う、おまえのことだ」
「……あ、そう。てっきり、花のことを言ってるのかと思ったよ」
「相変わらず、自分の魅力に疎い奴だ」
「失礼だな、普通は自分のことなんかいちいち気にしないよ」
軽く肩を竦めて言いながら玄関のドアノブを引くと、上り框で靴を履きかけている城崎さんが視界に入り込んだ。
「あ、柚月ちゃん、やっぱり外にいたんだ、あのね——…、っ、」
いつものように笑顔を広げていた城崎さんだったが、言いかけた言葉を区切ったかと思うと、突然ロウ人形のように固まる。
その視線は、私を飛び越えた先に注がれていて。
(…え、なになに、どうした?)
その様がとても不思議で、私の後ろに立つ響也に振り返れば、彼もまた同じように動きを止めていた。
「え、なに? 二人ともどうしたの?」
事由が全く把握できないまま、視線を交差させる二人の障壁になってしまっている私が立ち位置を横にずらすと、響也がスッと一歩前に出た。
「おまえは…、」
「石羽くんじゃない、びっくりだなあ」
「驚いたのは俺の方だ。こんなのところでおまえに出会うことになるとはな」
「…その口振り、変わらないね、ほんとに」
「なぜおまえがここにいる?」
「石羽くんこそ、どうしてここにいるの?」
「俺は柚月の友人で、久しぶりに帰国したついでに会いに寄ったのだ」
「…ふーん、そう」
「それで? おまえはなぜここにいる?」
「色々あってね」
「色々とはなんだ?」
「教えない」
冷笑に近い笑顔を滲ませる城崎さんと、眉根に縦皺を作って訝る響也を見ていると、どうやらこの二人はあまり仲が良さそうじゃない。
というか。
「あの、すごく奇遇だなって思うんですけど…、二人とも、知り合いなんだ?」
彼らを交互に見ながら述べた素朴な質問に、こちらに顔を向けた城崎さんは私を視界にとらえた途端、瞳を柔らかなものに変えて続けた。
→
「……」
久しぶりに目にした響也の姿は相変わらず堂々とした佇まいの寡黙な青年で、こちらがにこやかに微笑みかけても、口端を僅かに上げた笑みのみで返される。
(…全然、変わんないなー)
内心で苦笑しながらも、やっぱり長くご無沙汰していた友達に会えたことは嬉しくて、門から玄関までのアプローチを弾む気持ちで歩いた。
「今日が休みで良かったよ。仕事だったら会えないところだった」
「そんな偶然があると思うか?」
「え?」
「1ヶ月ほど前から、この日に帰国できるように調整していたからな」
「そうなんだ…、…え、でもそれってさ」
「おまえの勤める病院に、オフの日を問い合わせていた」
「げ、マジで?」
「文句でもあるか?」
「文句って言うか…、私に直接聞けばいいじゃん」
「俺がおまえとL〇NEをする暇がなかったからだ」
「そういう場合は、代わりに秘書さんに頼めばいいのに」
「俺以外の人間が、おまえに直接連絡を取ることが気に入らない。秘書なら、病院側に問い合わせるだけで事足りる」
「…なんだそれ」
意味不明な理由に思わず呆れてしまいながら、頬を引き攣らせて苦く笑う。
「柚月」
「なに?」
「しばらく見ないうちに、また綺麗になったな」
「手入れは主に父がやってるから…、父の得意分野なんだ」
「………」
「…ん?」
「……何の話だ?」
「え? 庭のガーデニングの…花のことじゃないの?」
「違う、おまえのことだ」
「……あ、そう。てっきり、花のことを言ってるのかと思ったよ」
「相変わらず、自分の魅力に疎い奴だ」
「失礼だな、普通は自分のことなんかいちいち気にしないよ」
軽く肩を竦めて言いながら玄関のドアノブを引くと、上り框で靴を履きかけている城崎さんが視界に入り込んだ。
「あ、柚月ちゃん、やっぱり外にいたんだ、あのね——…、っ、」
いつものように笑顔を広げていた城崎さんだったが、言いかけた言葉を区切ったかと思うと、突然ロウ人形のように固まる。
その視線は、私を飛び越えた先に注がれていて。
(…え、なになに、どうした?)
その様がとても不思議で、私の後ろに立つ響也に振り返れば、彼もまた同じように動きを止めていた。
「え、なに? 二人ともどうしたの?」
事由が全く把握できないまま、視線を交差させる二人の障壁になってしまっている私が立ち位置を横にずらすと、響也がスッと一歩前に出た。
「おまえは…、」
「石羽くんじゃない、びっくりだなあ」
「驚いたのは俺の方だ。こんなのところでおまえに出会うことになるとはな」
「…その口振り、変わらないね、ほんとに」
「なぜおまえがここにいる?」
「石羽くんこそ、どうしてここにいるの?」
「俺は柚月の友人で、久しぶりに帰国したついでに会いに寄ったのだ」
「…ふーん、そう」
「それで? おまえはなぜここにいる?」
「色々あってね」
「色々とはなんだ?」
「教えない」
冷笑に近い笑顔を滲ませる城崎さんと、眉根に縦皺を作って訝る響也を見ていると、どうやらこの二人はあまり仲が良さそうじゃない。
というか。
「あの、すごく奇遇だなって思うんですけど…、二人とも、知り合いなんだ?」
彼らを交互に見ながら述べた素朴な質問に、こちらに顔を向けた城崎さんは私を視界にとらえた途端、瞳を柔らかなものに変えて続けた。
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