苛立ちのメカニズム ・1

文字数 1,179文字

『どうする?』

…と言われても。

もうすでに決まっていることに反対しても仕方がない。
しかも、簡単に嫌だと言える内容ではないから、なおさら。

『お父さんが決めたなら、それでいいよ』

そう答えるしかないと思った。


〔城崎咲也(キザキサクヤ)〕と名乗った彼は、なんと、帰宅後もしっかりとうちにいて。

『もう二度とまたはない』との哀願も虚しく散り、戸惑う私をフォローするためもあってか、父の口から早々にその理由が語られた。

城崎さんは私より3つ年上で、意外にも私立探偵だった。
モデルみたいに美しい人が、心身ともにキツそうな探偵とか…まるで嘘みたいだ。

前所長から託されたという私立探偵事務所の現所長を務めているらしいけど。
どんな理由であれ、その若さで所長なのだから、それなりに有能なのだろう…それも意外だ。

ただ、気の毒なことに、つい最近その事務所兼居宅が火事で全焼したらしい。

原因は、放火だとかで…。

たとえ城崎さんに対する第一印象が最悪だったとしても、さすがにそのことには胸が痛んだ。

『僕の場合は、仕事柄、悪い人たちから恨みを買うこともあるから…、たぶん、今回の放火はその報復みたいなものかな』

サラッと言える城崎さんには鉄の心臓が備わっているに違いないけど、それでもやっぱり、少なからず傷付いたと思う。

…だから。

事務所の建替え工事が終わるまでのしばらくの期間、同じ屋根の下に住むことになっても受け入れるしかないと思った。
幸いというか、うちは家も広いし、空いてる部屋もある。

だから別に、それほど差し支えはないはず…。

「……」

…支障が出たら、すぐに出て行ってもらおう…。


「そういえば、颯太、久しぶりに会って思ったんだけど、少し背が伸びたんじゃない?」
「え、マジか!?」
「うん。さっき向き合ったときに、前よりも目線が近くなったなって思ったから」
「高校卒業したときは、170㎝くらいだったから…、」
「あれから5㎝近くは伸びてるかも? 男の人って、25歳くらいまで身長が伸びるらしいから」
「嬉しすぎる…!」

城崎さんが、私の幼馴染である颯太と知り合いだったのにはとても驚いた。

颯太が通っていた高校の先輩で、縦の関係抜きで仲が良かったらしく、今日、私と一緒に映画に行った帰りにうちに寄った颯太と思わぬ再会を果たし、懐かしそうにお互い声を掛け合っていた。

「……」

世間って本当に狭いんだな…。


すでに他界している城崎さんのご両親と父は古くからの友人で、城崎さんの幼い頃には家族ぐるみの付き合いもあったらしい。

そうなると、私もずっと昔に城崎さん一家に会っていたことになるわけだけど、全く記憶に残っていない。


——何か困ったことがあったなら、できる限りの手助けをする——


情に厚い父が、古くからの友人に対して常に心に宿している取り決めは、時を経て今、
その息子である彼を居候させるという形となって、動き出した。



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登場人物紹介

藤沢柚月(フジサワ ユヅキ)23歳

主人公

特異な経歴ゆえに若くして医師


H162cm

城崎咲也(キザキ サクヤ)26歳

私立探偵事務所の所長


H179cm

真鍋颯太(マナベ ソウタ)23歳
柚月の幼馴染


H170cm

石羽 響也(イシバ キョウヤ)27歳

柚月の友人


H175cm


久動 琉成(クドウ リュウセイ)28歳

柚月が勤める大学病院の先輩医師


H176cm

倉橋 舞雪(クラハシ マユキ)23歳

柚月の親友


H156cm

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