消せない想い ・4
文字数 1,212文字
「何があったのかは知らないが、おまえはもう少し、自分というものを優先すべきだ」
「…え? いつも優先してるけど?」
「いつもではない」
「…、」
想定外の言葉をどのように受け止めたらいいのか分からず、戸惑いを隠せないまま響也の次の言葉を待つ。
「おまえと城崎の関わりを知ったあの日から、嫌な予感はしていた」
「…どういうこと? 『嫌な予感』って…」
「俺にとって好ましくない予感だ」
「…、」
「……だが、あいつは、俺が思っているよりもずっといい男なのだろう…、」
<おまえが選んだ男なのだからな>
ポンと一言添えるように、そう何気なく付け加えられた言葉に目を見張る。
「い…いや、あのね、それはねっ…、えっと、なんていうのかな、」
「……」
心底の想いを掘り起こされて心臓が飛び跳ねた私とは対照的に、そっと足を組み替えた響也は、
悠然とした面持ちでコーヒーを口にした。
「無駄なあがきだ、俺にはしっかりバレている。もともとおまえは、嘘が下手な女だからな」
「っ…、」
「今度は俺が、友人としておまえを力付ける番だ。…あの日、おまえが作ったオムライスに添えてくれたエールのようにな」
「———」
こちらに視線を移した響也の瞳がとてつもなく優しくて。
私は、熱を持ち始めた頬をそのままに、ただ茫然とその相貌をひたすらに眺める。
(…そっか、あのときのエール…、だから『妻になれ』とか、わざとあんなこと言ったんだ…)
それは、応援の言葉として私に向けていて。
最初から、私の城崎さんに対する想いに気付いていたから、
想像もしない選択肢を私に突き付けて、誤魔化すことの愚かさを伝えようとしてくれていたのだろう。
「…ただし。おまえが今後の自分をきちんと見極めずにモタモタしていたら…、泣こうが喚こうが、俺がおまえを攫いに来る」
「えっ。そ…そんな、また冗談言って。あれは私に刺激を与えるために、私へのエールを込めて言ったことだよね?」
「……さあ、どうだろうな」
「え…、」
「…俺は…、」
言いかけて、言い惑う。
整った唇は真一文字に線を引いたままで言葉を刻まずに、
私を見つめる瞳は、今ここで何を述べるべきなのかを模索しているように感じた。
やがて、沈黙が破られた先に待っていたのは、
「……フッ…、」
響也の柔らかな笑顔。
「響也…?」
「いや、なんでもない。俺は、おまえの<初めての想い>を壊すつもりはない」
「……、」
「とにかくおまえは、自分の想いに絶対に嘘はつくな」
「…響也…」
「もしもその言いつけを守らなければ、俺にこっぴどく叱られるということを、覚悟しておけよ?」
憎たらしいくらい精悍で深い優しさを湛えたこの微笑を、私はきっと、一生忘れないだろう。
それほどに、響也の笑顔は美しく友愛に満ちていた。
「……分かった。一応、肝に銘じとく」
今はまだ、50パーセントの了承の意を示すことしかできないけど。
「…頑張れよ、柚月」
友としての想いが込められたエールは、私の胸奥に温かな潤いをもたらしてくれた。
→
「…え? いつも優先してるけど?」
「いつもではない」
「…、」
想定外の言葉をどのように受け止めたらいいのか分からず、戸惑いを隠せないまま響也の次の言葉を待つ。
「おまえと城崎の関わりを知ったあの日から、嫌な予感はしていた」
「…どういうこと? 『嫌な予感』って…」
「俺にとって好ましくない予感だ」
「…、」
「……だが、あいつは、俺が思っているよりもずっといい男なのだろう…、」
<おまえが選んだ男なのだからな>
ポンと一言添えるように、そう何気なく付け加えられた言葉に目を見張る。
「い…いや、あのね、それはねっ…、えっと、なんていうのかな、」
「……」
心底の想いを掘り起こされて心臓が飛び跳ねた私とは対照的に、そっと足を組み替えた響也は、
悠然とした面持ちでコーヒーを口にした。
「無駄なあがきだ、俺にはしっかりバレている。もともとおまえは、嘘が下手な女だからな」
「っ…、」
「今度は俺が、友人としておまえを力付ける番だ。…あの日、おまえが作ったオムライスに添えてくれたエールのようにな」
「———」
こちらに視線を移した響也の瞳がとてつもなく優しくて。
私は、熱を持ち始めた頬をそのままに、ただ茫然とその相貌をひたすらに眺める。
(…そっか、あのときのエール…、だから『妻になれ』とか、わざとあんなこと言ったんだ…)
それは、応援の言葉として私に向けていて。
最初から、私の城崎さんに対する想いに気付いていたから、
想像もしない選択肢を私に突き付けて、誤魔化すことの愚かさを伝えようとしてくれていたのだろう。
「…ただし。おまえが今後の自分をきちんと見極めずにモタモタしていたら…、泣こうが喚こうが、俺がおまえを攫いに来る」
「えっ。そ…そんな、また冗談言って。あれは私に刺激を与えるために、私へのエールを込めて言ったことだよね?」
「……さあ、どうだろうな」
「え…、」
「…俺は…、」
言いかけて、言い惑う。
整った唇は真一文字に線を引いたままで言葉を刻まずに、
私を見つめる瞳は、今ここで何を述べるべきなのかを模索しているように感じた。
やがて、沈黙が破られた先に待っていたのは、
「……フッ…、」
響也の柔らかな笑顔。
「響也…?」
「いや、なんでもない。俺は、おまえの<初めての想い>を壊すつもりはない」
「……、」
「とにかくおまえは、自分の想いに絶対に嘘はつくな」
「…響也…」
「もしもその言いつけを守らなければ、俺にこっぴどく叱られるということを、覚悟しておけよ?」
憎たらしいくらい精悍で深い優しさを湛えたこの微笑を、私はきっと、一生忘れないだろう。
それほどに、響也の笑顔は美しく友愛に満ちていた。
「……分かった。一応、肝に銘じとく」
今はまだ、50パーセントの了承の意を示すことしかできないけど。
「…頑張れよ、柚月」
友としての想いが込められたエールは、私の胸奥に温かな潤いをもたらしてくれた。
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