赤い糸 ・3
文字数 1,464文字
「あのね、先生、わたし、光の妖精やるのっ」
「そうなんだ? すっごく楽しみにしてるよ」
「うんっ! 妖精さんたちは出番が多いから、毎日練習頑張ってるの」
「そっかあ、偉いなあ」
「妖精さんの服もすごく可愛いの」
「<妖精のゆなちゃん>、ほんとに楽しみにしてるね」
発表会に出席する約束をした後、母娘を見送るためにゆなちゃんと仲良く手を繋いで玄関ホールに向かう。
ゆなちゃんとの会話を続けながらエントランスを目指して歩を進めていると、ホール中央の自動扉が開き、そこから城崎さんが現れて少しばかりギョッとなった。
「…あ、柚月ちゃん。ちょっと早いかなと思ったんだけど、迎えに来ちゃった。…そろそろ上がり?」
「ご、ごめんなさい、まだあともう少しかかるかなと…」
なんとなく、勝手に気まずい。
【 藤沢柚月 ⇔ 城崎咲也 】
( 恋人同士 )
そんな人物相関図が再び脳裏に浮かんで、それを消し去るようにささっと頭を振った。
「もしかして、頭痛?」
「いえっ、違います、全然、何でもありませんので…っ、」
「……」
不自然さが漂うその返しを城崎さんが妙に思わないわけがなく、がっつりこちらを注視しながら小首を傾げた。
「…体調の方はどう?」
「あ、えっと、もうほんとに平気です。すみません、心配かけて…」
「……ううん、大丈夫ならよかった」
「…、」
意外にも追及されずに済んでホッと胸を撫で下ろしながらも、口端が引き攣ったようなぎこちない笑みを晒しそうになり、
悟られまいと慌ててゆなちゃんに視線を移す。
それに倣うように落とした視線の先にゆなちゃんを捉えた城崎さんは、柔らかに目を細めた。
「可愛い子連れてるね」
「そうなんですよ! この子は以前、私が担当した患者さんなんですよねっ、」
「…そうなんだね」
「はいっ」
(……ちょっと大袈裟な感じになっちゃったかな)
誤魔化しの上塗りで、少し食い気味に言い放ってしまったことに一瞬後悔したが、
「佐古田ゆな、6歳です! こんにちはっ!」
ゆなちゃんの無駄のないストレートな自己紹介が、それをすっかりカモフラージュしてくれた。
「こんにちは。<ゆなちゃん>って言うんだ、可愛いね。僕の名前は城崎咲也、26歳です。よろしくね」
「よろしくお願いしますっ!」
「すごくしっかりしてるね」
「褒めてくれてありがとうございますっ!」
ドヤ顔混じりの破顔と胸を張るようにピンと背筋を伸ばした幼い風采は、将来のリーダー性を醸し出していて頼もしく、けれどその反面、
(うわ…、可愛いな…)
勢いよく会釈した拍子に揺れるツインテールがウサギの耳を思わせて、その愛らしさに彼女の頭をさわさわっと撫でる。
「私がゆなちゃんくらいのときなんて、大人とこんなに上手に話せなかったよ、ほんと偉いなー」
「えへへ…」
しばらく照れくさそうに微笑んでいたゆなちゃんだったが、眼前に立つ城崎さんに再び視線を巡らせると、下からじっと観察するように彼を見据えた。
「……」
そんな彼女の姿を見ていると、
どういうわけか、この場で聞こえるはずのないドラムロールの音が鳴り響く幻聴。
「……うん? どうかしたの?」
自分を見つめてくる愛くるしい双眸に、さすがの城崎さんもちょっぴり困惑したように、口元にだけ笑みを湛えて視軸を合わせた。
(城崎さん、イケメンだから『かっこいい!』とか言うのかな…?)
世間一般の女の子たちが言いそうで一番的確だと思われる返答をこっそりと推測していたが、
「もしかして、お兄ちゃんは、柚月先生の恋人?」
(…え!?)
予想外の回答が、ドラムロールの締めのシンバル音の幻聴と同時に告げられた。
→
「そうなんだ? すっごく楽しみにしてるよ」
「うんっ! 妖精さんたちは出番が多いから、毎日練習頑張ってるの」
「そっかあ、偉いなあ」
「妖精さんの服もすごく可愛いの」
「<妖精のゆなちゃん>、ほんとに楽しみにしてるね」
発表会に出席する約束をした後、母娘を見送るためにゆなちゃんと仲良く手を繋いで玄関ホールに向かう。
ゆなちゃんとの会話を続けながらエントランスを目指して歩を進めていると、ホール中央の自動扉が開き、そこから城崎さんが現れて少しばかりギョッとなった。
「…あ、柚月ちゃん。ちょっと早いかなと思ったんだけど、迎えに来ちゃった。…そろそろ上がり?」
「ご、ごめんなさい、まだあともう少しかかるかなと…」
なんとなく、勝手に気まずい。
【 藤沢柚月 ⇔ 城崎咲也 】
( 恋人同士 )
そんな人物相関図が再び脳裏に浮かんで、それを消し去るようにささっと頭を振った。
「もしかして、頭痛?」
「いえっ、違います、全然、何でもありませんので…っ、」
「……」
不自然さが漂うその返しを城崎さんが妙に思わないわけがなく、がっつりこちらを注視しながら小首を傾げた。
「…体調の方はどう?」
「あ、えっと、もうほんとに平気です。すみません、心配かけて…」
「……ううん、大丈夫ならよかった」
「…、」
意外にも追及されずに済んでホッと胸を撫で下ろしながらも、口端が引き攣ったようなぎこちない笑みを晒しそうになり、
悟られまいと慌ててゆなちゃんに視線を移す。
それに倣うように落とした視線の先にゆなちゃんを捉えた城崎さんは、柔らかに目を細めた。
「可愛い子連れてるね」
「そうなんですよ! この子は以前、私が担当した患者さんなんですよねっ、」
「…そうなんだね」
「はいっ」
(……ちょっと大袈裟な感じになっちゃったかな)
誤魔化しの上塗りで、少し食い気味に言い放ってしまったことに一瞬後悔したが、
「佐古田ゆな、6歳です! こんにちはっ!」
ゆなちゃんの無駄のないストレートな自己紹介が、それをすっかりカモフラージュしてくれた。
「こんにちは。<ゆなちゃん>って言うんだ、可愛いね。僕の名前は城崎咲也、26歳です。よろしくね」
「よろしくお願いしますっ!」
「すごくしっかりしてるね」
「褒めてくれてありがとうございますっ!」
ドヤ顔混じりの破顔と胸を張るようにピンと背筋を伸ばした幼い風采は、将来のリーダー性を醸し出していて頼もしく、けれどその反面、
(うわ…、可愛いな…)
勢いよく会釈した拍子に揺れるツインテールがウサギの耳を思わせて、その愛らしさに彼女の頭をさわさわっと撫でる。
「私がゆなちゃんくらいのときなんて、大人とこんなに上手に話せなかったよ、ほんと偉いなー」
「えへへ…」
しばらく照れくさそうに微笑んでいたゆなちゃんだったが、眼前に立つ城崎さんに再び視線を巡らせると、下からじっと観察するように彼を見据えた。
「……」
そんな彼女の姿を見ていると、
どういうわけか、この場で聞こえるはずのないドラムロールの音が鳴り響く幻聴。
「……うん? どうかしたの?」
自分を見つめてくる愛くるしい双眸に、さすがの城崎さんもちょっぴり困惑したように、口元にだけ笑みを湛えて視軸を合わせた。
(城崎さん、イケメンだから『かっこいい!』とか言うのかな…?)
世間一般の女の子たちが言いそうで一番的確だと思われる返答をこっそりと推測していたが、
「もしかして、お兄ちゃんは、柚月先生の恋人?」
(…え!?)
予想外の回答が、ドラムロールの締めのシンバル音の幻聴と同時に告げられた。
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